DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

Soundtrapのトラック別ダウンロードについて

日本国内でSoundtrapを積極活用しているユーザは非常に少ないのではないかと推測するが、最近気づいた注意点らしきものを一応備忘録的に書いておく。なお、Soundtrapについては以下の過去記事でも少し触れた。

daw-jones.hatenablog.com

オーディオ素材作成にいいかと思っていたが...

SoundtrapはWebサービスにしては高音質で、無料枠で楽しむのであれば、ピンポイントでのちょっとしたオーディオ素材生成用に使えると考えていた*1。お手軽なエフェクト類が割と充実しており、ボーカル録音にも使い道がありそうに思える*2

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トラック別ダウンロードの限界

当然のことながら、エフェクト処理後のトラック別ステムをWAVファイルでダウンロードしたいと思うわけだが、実際に試してみると、エフェクトが掛かっていないドライの状態でしか落とせない。これはオーディオのみならずインストゥルメント(MIDI)トラックであっても同様の結果になる。

どうしてもエフェクト適用後のステムを落としたい場合は、該当トラック以外をすべてミュートにしたミックスをダウンロードするという手段しかないが、この場合はWAVではなくMP3でしか落せないという制約がある。しかもこのMP3には時々プチプチとノイズ混入する場合があり(クリップノイズか?)、音質上許容できない。

ということで、ステムをWAVで落とせぬならば使い道がないな、という結論である。元来メインで使い倒すつもりはなく、必須ツールというわけでもないので特に不都合が生じる事態ではないが、ちょっぴり残念な結果であった*3

蛇足だが、MIDIトラックのダウンロードの際は、ドライのオーディオ書き出ししか対応しておらず、MIDIデータそのものは落とせないようである。なぜこのような仕様なのかは不明。

*1:サーバでのレンダリング処理が異常に重くなるので、有料プランであっても、長尺かつトラック数過多な楽曲の編集には向いていないと思う。

*2:エフェクト関連はユースケースによっては意外にも Studio One 3 Prime より使い勝手がいい印象を受ける。

*3:楽器音色によってはドライで落として手持ちのDAWでエフェクト加工するというやり方もありうるが。

ギターのストローク表現 (つづき)

前回記事の補足。

daw-jones.hatenablog.com

 

ギターのコード・ストロークに関しては、MIDI打ち込みでもある程度はシミュレート可能だが、近年ではサンプリング音源を使ったさらにリアルな再現方法の方が一般的だと思われる。

そこで今回は音源の一例としてプラグイン Ample Sound Guitar M Lite II*1(以下AGML2)を取り上げ、コード・ストロークに絞って操作の要点などを簡単にまとめておく。ホストDAWは Tracktion 5(以下T5)を用いるとする。

基本操作コンセプト

基本操作は、コードとストラム・パターンを組み合わせて演奏する*2。両者ともプリセットが入っているが、むろんユーザ定義も自由に追加編集できる。

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上の図解通り、StrummerモードをONにすると、それに応じてキーの割り当てが通常のドレミファ音階からストラミング専用の特殊な定義に変更される。

具体的には、中央ドとなるC3を境目にして、左手C1からB2まで黒鍵含めて全24キーにコード定義がアサインされる。逆にC3以降右手側は、主としてストラム奏法の個々の構成要素(上図青色キー)とストラム演奏定義パターンの呼び出しボタン(上図黄色キーのうちC3/C#3/D#3/F#3/G#3/A#3/C#4/D#4の8つ)から成る。演奏パターンは、当然のことながら、各種構成要素のノートを組みわせて構築することになり、簡便な内臓パターン・エディターを使える。もしくは、構成要素のノート(青色キー該当)を直接MIDIで打ち込んで演奏させてもよい。

定義パターンを呼び出して演奏させる場合の典型的なMIDIデータ例は以下の通りとなる。パターンのノートは、演奏させたい長さだけゲートタイムを伸ばす。一方、コード指定は一瞬でよく、8分音符もしくは16分音符一つで足りる。指定タイミングは、ストラム・パターンの直前か同時でよい(直前の方が確実)。

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なお、Strummer機能の基本操作については、以下のメーカー公式チュートリアルが簡潔明瞭でわかりやすい(音源機種は異なるが基本操作は同じ)。

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MIDIデータで直接パターン展開

ストラミングの演奏パターン(シーケンス)をキー割り当てする方法はMIDIデータが非常に簡素になる一方で、

  • 演奏中に呼び出せるシーケンス(呼び出しボタンのようなもの)の数は最大8つまでという制限がある*3
  • 各定義パターンは1小節の長さに限られる。
  • 付属のパターン・エディターが必ずしも使い勝手が良いとは限らない(ユーザの好みや慣れの問題)。

といった制約もあるため、直接MIDIデータで打ち込んでしまう方が融通が効く場合も考えられる。

この方法を選択する場合は、コード指定用のノートのみならず、ダウンストロークやアップストローク、ミュートといったストラム奏法の各種構成要素が割り当てられたノートをすべてMIDIデータとして打ち込んでいく。以下は打ち込みイメージ例であるが、C3ノートを境にして、下の領域でコード指定を、上の領域でストラムのパターン(ベロシティ含む)を展開する。

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これをMIDI打ち込みではなくリアルタイムのキーボード演奏で実演している動画があったので参考まで。コード指定とストラム構成要素をどのように組み合わせて演奏するか、実際のイメージを掴みやすい。

www.youtube.com

T5で使う場合の注意点

上述のようにAGML2側のキー・マッピング用キーボードがC3を中央ド(ノートナンバー60)に設定しているため、T5側も同様の設定に合わせておくと混乱しないで済む。

具体的には下図のとおり、Settings メニューより MIDI Devices を開き、下の Middle-C の設定を"C3"に指定する*4

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MIDI検定で使う場合の注意点

AGML2のストローク演奏に対応したMIDIデータは、明らかにAGML2でしか意味を持たない特殊な打ち込みパターンになる。したがって、この手法は少なくともMIDI検定2級2次および1級1次審査では使えない。

しかし、オーディオしか評価されない1級2次審査では十分活用の余地があると思われる。もちろん実際に使うとなると、1次審査用に提出するSMFと2次審査用のMIDIデータは、一部トラックを差し替える等の差異が生じ、追加編集の手間が余分に必要となる。詳細は過年度課題曲セットを入手しての実技演習によって後日検証したい。

*1:Lite版は無償で利用可能。音質の良さ等ユーザの評価が非常に高く、紹介記事や動画も多数。

*2:言わずもがなとはいえ、コード指定必須なので、基本的なコードネーム記法は知っておく必要がある。これについては、過去記事「コードネームの表記法を覚える」を参照。

*3:演奏パターンの定義保存それ自体には制限ない。どの演奏パターンをどのシーケンス番号(1から8まで)に割り当てるかはユーザでその都度自由に設定できる。

*4:Studio One もC3が中央ドとなっているので全ツールで統一した方がいいだろう。Dominoも Studio One に合わせて設定変更した経緯がある。

MIDIによるギターのストローク表現

MIDIを使った主たるギター奏法シミュレーションのうちで、ミュートとチョーキング(ベンディング)、ハンマリングオン(またはプリングオフ)の3種はすでにMIDI検定2級の練習曲でカバーされている。しかし、もっともギターらしい奏法とも言えるコードストローク(ストラム)については、私が知る限り練習曲中で目にしたことがないので、未習熟のままである。そこで今回はストローク奏法について確認しておく。

基本的な考え方

ストローク奏法はMIDIでは定番の確立された方法論があって、それも種明かしをしてしまえば拍子抜けするほど簡単である。すなわち、コード構成音のノートオンのタイミングを高音から低音(またはその逆)の順に少しずつ(数ティックずつ)ずらせばよい。

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上図具体例の通り、ダウンストロークの場合は低音から高音の順、アップストロークであれば高音から低音の順にずらす。このズラしによって「ジャラン」という発音のニュアンスをシミュレートする。適度にミュートも混ぜれば、こんな簡単な工夫でも案外ギターらしく聴こえる。

上述同様の具体的なテクニックについては、公式ガイドブック第6章「ギターに共通する奏法について」pp.226-227 にも紹介されている。

Dominoでの自動編集法

ストローク・シミュレーションのためのノートオンのズラし表現は、Dominoで自動展開できる機能がある。ストローク奏法にしたいコード進行をピアノロール上で選択した状態で、メニューより イベント > ストローク を開くと以下のような設定パネルが表示される。

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ベロシティも自動調整可能なので重宝すると思う(通常はストローク順に減少させることになろう)。最後にOK押下で下例のようなストロークの打ち込みを瞬時に実現する。

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効果のほどは

意外にもGM音源のギター音色ではそこそこ本物に近い効果を得る。他のパートと混ぜてボリューム調整すればほとんど違和感なく聴こえると思われる。

試しに上例のMIDIデータを Studio One 3 Prime にインポートして Presence XT のギター音色で再生してみたが、音色次第で効果の発揮具合は大きく異なる。例えば、ストラトキャスターはある程度の効果は出ている一方で、逆に残念ながらアコギは効果が薄い印象を受ける。

音源のアーティキュレーション機能

簡便法として上記のMIDI表現テクニックも使い場所はあると思うが、今ならリアルなサンプリング音源が持つストローク表現機能*1を活用する手法の方がおそらくもっと一般的であろう。これについては稿を改めて補足することにしたい。

*1:たとえば、Ample Sound Guitar M Lite II など。Strummer 機能を内蔵する。

MIDI検定実技対策のワークフロー

MIDI検定試験の実技対策用ワークフローが概ね固まったので、2級と1級あわせて下記の通りにまとめておきたい。

Domino と Studio One 3 Prime(以下S3)および Tracktion 5(以下T5)を組み合わせた手順で少々込み入ってはいるが、全工程で無償ツールを活用した制作例として参考になると思う。もちろん、CubaseDAWの有償上位バージョンを使う場合はすべてDAW単独で処理できる可能性が高い。

2級2次試験

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2級2次の場合、MIDIデータ作成の中軸はDominoが担う。S3はあくまで基礎データ(ゲートタイムが音価100%のままでPB/CCなど付加データなし)入力用に過ぎない。

簡単なミックスダウンとWAVファイルの書き出しは上図の通りにS3で実行してもよいが、DominoによるGM音源再生出力をAudacityで録音して書き出しても構わない。

1級試験

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1級では2級とは逆に、MIDIデータ作成の主役はS3である。データ作成面では、Dominoはシステム・セットアップデータの追加にとどまる。

一方、下記前回記事で触れたように音質の問題を克服する目的でミックスダウンはT5を使うため、S3からステムおよびMIDIデータ(ドラム等一部特定のトラックのみ)といった必要な素材を別途書き出してT5にインポートする。

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Studio One と Tracktion の使い分けについて (再考)

MIDI検定1級課題曲サンプル*1やリミックス自主制作*2などで何度か聴き比べた結果、Studio One 3 Prime(以下S3)で制作したオーディオは、やはり Tracktion 5(以下T5)でミックスダウンし直した方がいい、という結論に到達した。

下記記事の通り、作業効率面ではメインの編集をS3で済ませる方が楽であるが、音質の観点からS3の書き出し結果にはどうしても満足できず、再検討の末に結局当初描いていたワークフロー通り、最終工程ではT5でのリミックスとマスター編集を必須にすべし、という考え方である。すなわち、S3で楽曲の基本構造の構築と簡単なエフェクト処理を済ませた後、ステムまたはMIDIデータを書き出してT5にインポートかつミックスダウン編集という流れとなる。

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Studio One の音質

S3による2ミックス出力結果の最大の問題は、各構成音の輪郭がぼやけて全体にややくぐもった音質になることである。特に低域で著しい悪化を認める。絵画で例えると、絵の具が滲んでぼんやりした状態で、一言で言えば音の抜けが悪い。楽器によっては鳴っているのかどうかはっきり分からなくなる場合も多い。

この問題は、内臓音源の Presence XT のサンプリング音色が元来やや曇った音質であり、高音の抜けが悪いので、重ね合わせると余計にそうなる傾向があると思う。楽曲によっては特に問題なしとも考えていたが、T5でミックスした音質との差は歴然としており、何度か比較検証しないと気づきにくいかもしれない。

ただし、上述の欠点というか不満はあくまで無償の Prime 版での限界ということである。プラグイン対応含めてすべて Studio One で問題解消したい場合は Professional 版にアップグレードすべきだろう。

Studio One の使いどころ

以前書いた記事の一部繰り返しになってしまうが、個人的にS3で最も優れていると思う点は、エディット画面の使い勝手の良さである。

全体と部分の切り替え表示がスムーズで、スクリーン・サイズ小さめのノート型PCでもほとんどストレスを感じることなく編集できる。

またMIDIエディターに関しても、T5に比較してコントロール・チェンジ入力含めて非常に使いやすい*3。私の経験では、MIDI検定2級対策でMIDIデータの打ち込みをMMLからS3に変えたところ、作業効率が大幅向上した実績がある。

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*1:公式ガイドブック p.245 掲載の2011年課題曲スコア1ページ目。

*2:昨年SleepfreaksがLANDRと共催したリミックス・コンテストのステムを使った試作実践。次の過去記事参照: リミックス演習の題材

*3:T5の場合、ピアノロール上でGMパーカッション・マップを表示できないので、ドラムやパーカッションの打ち込みは困難を極める(ステップ入力機能でも同様)。また各ノートバーの先端が丸型形状なのは大変見辛く、ノートオンのタイミングを確認しにくい。

ドラムのパーツ分解と編集方法おさらい

今回も下記記事の補足を兼ねて、ドラムのパーツ分解出力とその編集方法について追記しておく。例によって、Studio One 3 Prime(以下S3)と Tracktion 5 (以下T5)の使い分けと役割分担が必要になってくる。

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MIDI書き出し(S3) + パラアウト・エフェクト処理(T5)

上記過去記事でも少し触れたように、S3ではパーツ分解しないMIDIデータを作り、(S3ではパラアウトする手立てがないので)T5でパラアウト処理する方法。すなわち、

  1. S3側でドラム・トラックのMIDIデータを作成する(パーツ分解はしない)。
  2. MIDIデータをT5にインポートしてパラアウト処理する。ここで初めてパーツごとにトラック分解し、個別にエフェクト処理、定位・音圧レベルを調整する。
  3. T5でミックスダウンした結果をWAVファイルに書き出し、再度これをS3にインポートして取り込む。

T5でのパラアウト設定方法については以下の過去記事を参照。ほとんど手動設定に依存するため、正直言って少々面倒ではある。また、GMパーカッション・マップ対応のドラム音源プラグインを使用する必要がある。私の現環境では、MT Power Drum Kit 2 しか該当音源がない。

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トラック分解・ステム出力(S3) + エフェクト処理(T5)

T5側で使える手持ちのドラム音源が乏しい場合は、S3側音源で鳴らしたオーディオをそのまま流用したい*1。この場合は、S3側でパーツ別トラック分解を実行し、その結果をステム出力する。すなわち、

  1. S3にてドラム・トラック(MIDIイベント)を別の新規ソングファイルに複写する。以下分解処理後は使わないトラックが無闇に増えてしまうので、煩雑さを回避するためマスター編集用のソングは触らず、別ファイルで分解実行する方が無難。
  2. ドラムMIDIイベントのピッチ別トラック分解を実行(Event > Explode Pitches to Tracks)。分解後は概ね下図のような状態となる。同一のドラムセット音色を鳴らしているので、全トラックとも同じ共通チャネルでミックス用フェーダーも一つのままである*2

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  3. トラックごとのステム出力処理(Song > Export Stems)。ステム出力パネルの左側"Sources"ペインでは、トラック選択指定を選ぶ(下例参照)。チャネル選択の場合はトラック別ステム・ファイルは作成されないので注意する。

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  4. 上記ステムファイルをすべてT5にインポートし、各トラック別にエフェクト処理、定位・音圧レベルを調整する(インポート直後は下例のような状態となる)。

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  5. T5でミックスダウンした結果をWAVファイルに書き出し、再度これをS3にインポートして取り込む。

幸い、S3でのステム出力は上述の通りバッチ処理が可能なので、 この方法でも案外手間は掛からない。作業効率という観点では、T5でのパラアウト設定とS3でのステム出力処理のどちらがやりやすいか、という比較になる。個人的には後者のS3ステム出力の方が楽であると思う(大半のプロセスをシステムの自動処理に任せられるため)。しかし、音質に関してはT5上でパラアウト再生した MT Power Drum Kit 2 の方が抜群に良い*3。ここは楽曲の特性や編集時間の制約などを勘案してケースバイケースで決めるほかなかろう。

*1:Presence XT のドラム音源は割と種類が豊富で様々な楽曲で使用に耐えうる。

*2:非常に面倒だが、もしエフェクトを含むミキサー処理を分けたい場合は、手動で個別にMIDIイベントをコピペして別のトラックを用意するしかない。

*3:逆にS3上無加工のドラムは音が埋没して聴くに耐えない。いずれの方法を採るにせよ、一度T5でミックス加工処理したオーディオを持ってこないと高い音質は達成できないようである。実はドラム以外のパートでも、ドラムほど顕著ではないにせよ、ややそうした平板化・埋没傾向はある。

Studio One と Tracktion の使い分けについて

前回記事の補足で、Studio One 3 Prime(以下S3)と Tracktion 5(以下T5)の使い分けについて再考する。実際のところ、S3の方をミックスダウン編集に使った方が効率的ではないか、という件について。

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追記

再検証の結果、音質の問題は無視できないので、結局のところ最終工程でT5を使ってミックスダウンする、という作業手順に落ち着いた。下記記事参照。

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ミキサー・コンソールがないのは辛い

S3と違ってT5はプラグインを自由に追加挿入できるのが最大の利点の一つだが、一方でミキサー・コンソール・ビューを備えていないため、率直に言ってミキシングとマスター編集の作業がとてもやり辛く効率が悪い*1。少なくとも作業効率という観点ではS3の方が一日の長があるように思うため、むしろS3をメインの編集統合用ツールとして使った方がいい、というのが試行錯誤の末の結論である。

Studio One (Prime) は素晴らしいが致命的な問題もある

S3の音質の良さは評判通りで、マスターに特別なエフェクトを咬まさないままであっても、WAVファイルにレンダリングした音質はほぼS3上で聴く状態を高いクオリティで保つ。また、書き出し時にクリップした際は警告を出してくれるため、T5のように手探りで何度も書き出し試聴チェックをしなくて済む*2

これだけ書くと、それならS3のみを活用すれば十分ではないかと思えるが、プラグインを挿入できない制約上どうしても克服できない欠点として以下2点ある:

  • 内蔵音源である Presence XT 以外の音色を使ってMIDI演奏できない*3
  • 同梱エフェクターが貧弱なのでドラム・パーカッションの音が埋没して立体感を出せない。

T5のトラック別レンダリング処理を積極活用

上記S3の欠点を補う方法は実は簡単で、別音色で発音させるかまたは追加のエフェクト処理が必要なトラックのみMIDIデータをT5にインポートし、WAVに書き出したファイルを再度S3にオーディオ素材として読み込んで(編集画面にドラッグして)ミックスすればよい。

T5でトラック別書き出しをする場合は、左下のメニューパネルから Export > Render to a file を選び、下図の通りにレンダリング用設定パネルにて、"Only Render Selected Tracks"(または無条件に全トラックを書き出す場合は"Render Each Track to a Separate File")にティックを入れて"Render"ボタン押下で実行する。

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MIDI検定1級のワークフローとの関連

当初考えていたMIDI検定1級対策のワークフローでは、S3での編集結果を全トラックにつきステム出力し、T5でミックスダウンをやろうかと思っていたのだが、課題曲サンプル*4で試作実験などをやってみたところ、トラック数がそれなりに多いとT5での編集が非常にストレスフルで、想定以上に時間を費やしてしまう。

したがって上述の通り、S3で統合編集とミックスダウンをやることは大前提として、一部のトラックのみT5で追加のエフェクト処理を適用してS3に戻す、という役割分担が最善であるように思う。楽曲によっては、T5の追加処理が一切不要であるケースもありうるわけで、作業効率は大幅に改善する*5

なお、MIDI検定1級の作業ワークフローについては、後日稿を改めてまとめたいと思う。

*1:この欠陥は最新版のWaveformで解消されている。

*2:T5でも、例えばプラグインのリミッターであるLoudMaxを使えば音割れは自動的に防止しうる。

*3:生楽器は概ね申し分ないが、逆にシンセ音源はかなり貧弱で種類も少ない。

*4:公式ガイドブック p.245 掲載の2011年課題曲1ページ目のスコア。

*5:ただ、ここまで書いておいて矛盾するようだが、音質面ではやはりT5で最終的なミックスダウン編集をやった方が格段にクオリティアップすることは否定できない。このあたりの最適なプロセスについては、追々1級課題曲演習等を実践する中で再吟味していきたいと思う。