DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

MIDI検定1級2016年課題曲制作の感想など

掲題の件で、ミックスダウンとマスター編集後のWAVファイル出力まで一通りやってみての感想などを書き記しておき、今後のワークフローの改善などに役立てることとしたい。

曲調などの雑感

2016年課題曲は、はっきり言ってジャズ・ブルーズの名曲 "Summertime" (原曲はジョージ・ガーシュウィンの「ポーギーとベス」)を換骨奪胎した印象を受ける。不協和音を敢えて積極的に盛り込んだ、若干奇異な感じもするクラシック風楽曲で、現代音楽ほどではないがやや難解かもしれない。

リズム・セクションがない楽曲なので、ドラム・パーカッションが入った課題曲を別途練習する必要があることは言うまでもない*1

スコアのボリュームとしては、パート数12および小節数47で、A3用紙6ページという分量である。音数は少ない方なので、ノートの打ち込み自体はさほど難しくはなく、作業量も極端に多いという感じはしなかった。そういう意味では、1級課題曲演習の最初のチャレンジにふさわしいのではないかと思う。また初心者にとっては、クラシックの表現方法やオーケストラ楽器の良き勉強機会を与えてくれる。

本曲はリズム・パートがない分ダイナミックな抑揚表現が大きな勘所で、かつ隠し味の不協和音をあまり目立たせないような各パートの音圧レベル調整も神経を使う。定位(パンポット)については、以下の記事で指摘したとおりである。

daw-jones.hatenablog.com

制作手順について

ノート入力

一番最初は音価100%でノートを次々に打ち込んでいく。ベロシティやコントロール・チェンジ (CC) などは後回しにした。2級実技もそうだが、とにかくノートを入れないことにはまったく前に進まない。

入力順や作業の区切りは、パートごとあるいは譜面ページごと、リハーサル・マークごと、など人によってやりやすい順番で潰していけばよい。私は今回はページ単位に区切って作業を進めた。ただし、そのせいかどうか不確かだが、後の間違い検証で小節丸ごと入力し忘れが2、3箇所あった。どうやらページ変わり目冒頭が特に要注意のようだ。

2級実技演習ではパート毎入力のやり方で慣れているため、そのアプローチも考えられなくはない。しかし、1級のようにパート数が非常に多い場合、このやり方では全体像が把握しづらく、なかなか完成形が見えてこないといった欠点がある。そういう意味では、リハーサル・マーク単位での作業進行がベストかもしれない。

追記 (2018-05-12)

入力作業単位については楽曲構成や曲調に依存する。一般的に言ってポピュラーの場合は、パートごとに潰して行く方がやりやすいと思う。すなわち、リズム系を最初に完成させ、その次にベース、とパート別に積み上げる方法が自然であろう。一方で比較的パート数が少ないクラシック系統の場合は、全パート同時並行でリハーサル・マーク単位に仕上げて行く方法がしっくり来ることもある。2016年楽曲はこのアプローチを採ったわけである。

ゲートタイムおよびベロシティやPB/CCの編集入力

これは必ず各パート毎にソロ再生して耳で確認しながら入れる方がよい。同時に譜面と照合してピッチとタイミングの再チェックを兼ねる。

ゲートタイム

協会推奨基準*2を念頭に置きつつ、ある程度適当に手動調整。2級実技ほど厳密に設定する必要はない。

ベロシティ

以前にも書いたように、少なくとも初期入力の段階では協会推奨基準に準拠でよいと思う。あれこれ迷わずに済むからだ。再生確認後に微調整すれば十分だろう。

音量変化と CC#11 Expression

Studio One 編集画面でのCCの変化曲線は、Parabolaを使わずにLineで描いてベンドする(中点をつまんで円弧状に変形させる)方が後からの微修正が楽で効率的であるように思う。

一見区別がつかないため、CCの入力タブ切り替えには注意である。私は今回の演習で、Expression を入れているつもりが After Touch を入力していたり、などというミスがあった(すぐに気づいたものの)。必ず再生チェックして確認すべきところである。

またデフォルト値がゼロのままであるところを気づかずに修正し忘れも要注意である(下図参照)*3。最大値127への戻し忘れももちろんチェックする。当たり前だが必ずソロ再生して問題ないか検証する。

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ビブラートと CC#1 Modulation

ビブラートは2級実技と違って譜面上は特に指定がないのだが、管楽器系のデュレーション長めのノートにはある程度ビブラートを入れないと平板に聞こえてしまう。少なくともクラリネットオーボエは必要最低限の範囲でビブラートは盛り込むべきだろう。

ただし、サンプリング音色によっては既にある程度のビブラート効果がかかっているものがあり、その場合はくどくなるので重ねてモジュレーションを掛けなくともよいと思う。今回で言えば、Presence XT 音源のピッコロがそれに該当する*4

音源について

率直に言って1級2次審査は音源音色のクオリティでほとんど評価が決まってしまうと思うので、単独の音源にこだわらずに適材適所で使い分けた方がいいだろう(有償無償問わず)。制作時間が限られる本番時点であれやこれやと探索している暇はないだろうから、過去の課題曲演習含めて日頃から各楽器に対応するベストの音源を準備しておく必要がある。

生楽器はほとんどのケースで Presence XT の音色で間に合うと思うが、該当音色がない場合、あるいはその音色に不満がある場合の代用音源としては VSCO2 もいい(過去記事参照)。

bigcatinstruments.blogspot.jp

マスター編集とWAV書き出し

Studio One 3.5 Prime(以下S3)の2ミックスを Tracktion 5(以下T5)にインポートしてマスター編集する。この仕上げ工程は必須だと思う。何度も書いていることだが、構成音のメリハリ強調と、高域と低域(特に低域)の押し上げに必要だからだ。

ただし、S3から各トラック毎ステムを書き出し、T5で再度ミックスダウンからやり直すのは、さすがに時間的に無理だと悟る。いずれにせよS3をProfessional版へアップグレードした暁には、S3とT5の併用に伴う面倒な追加編集は一切無用になってしまう。

SMF作成

今回はオーディオ出力までで、SMFの作成は未着手である。これについては、Dominoで最終確認する前準備の定型プロセスをPythonによる自動バッチ処理に任せたい思惑もあるので、その検証と合わせて追々やっていきたい(すでに記事はシリーズ化)。

もちろん、しょぼいGM音源で再生した場合にどういう感じに聞こえるか、といった点も気になるところではある。

*1:私は一応過去の課題曲(本年分含めて計8曲)は全部やってみるつもりだが、上級者は、クラシック、ジャズおよびロック各1曲ずつ計3曲程度で十分かもしれない。

*2:レガートは音価の100%(レガート終端は90%)、スタッカートは50%、それ以外は概ね80%。あくまで参考基準値であるから楽曲に応じて微調整はする。

*3:全休符を飛ばしてMIDIイベントを分割入力しているとやらかしやすい。

*4:モジュレーション・マトリックスの定義設定については、過去記事を参照。

譜面解釈とMIDI表現 (7) ダブルベース

ダブルベース(コントラバス)の奏法は、弓を使う方法(アルコ)と、弦を指で弾くピチカートの2種類があり、2016年のMIDI検定1級課題曲でも1箇所だけ使い分けが必要である(下記譜例参照)。なお、ダブルベースの楽器自体の解説については下記動画に詳しい。

www.youtube.com

2016年課題曲では、下記譜例のとおり、2小節だけピチカートのモードになり、その後アルコに戻る。

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これはホルンのゲシュトップフト奏法と同じく、MIDI表現の範疇を越えて音源側で対処すべき音色選択の問題である。以下、私が採用した方策の例を述べてみる。

ピチカートについては、 Presence XT の Upright Bass で代用する。Presence XT の他のベース系音色同様にこれはオクターブ下げなくてもよい(記譜通りに発音させる)。なぜなら、既に1オクターブ下げた音色になっているからである。

一方、弓を使った奏法は Presence XT にふさわしい音色が見当たらなかったため、VSCO2音源の Double Bass 音色で差し替えた。この音色は再生時に1オクターブ下げる。

bigcatinstruments.blogspot.jp

コントラバスについては、実音が記譜よりも1オクターブ低くなる。したがって、SMFとして書き出すMIDIデータはDominoで1オクターブ下げておく必要がある。この点は2級実技での対応と同様になる。

蛇足。上記コントラバスに限らずオーケストラの生楽器については、以下の London Philharmonia Orchestra の楽器解説シリーズが大変勉強になるので参考まで。

www.youtube.com

追記 (2018-08-26)

よく調べると Presence XT にもアルコ奏法のコントラバスの音色があり、Strings > 8 Basses Legato がそれに相当すると思われる。私は2018年1級試験ではこの音色で対応した。

譜面解釈とMIDI表現 (6) グリッサンド

グリッサンド (glissando) も管楽器を中心としてMIDI検定1級課題曲ではよく目にする表現だと思う。2016年課題曲ではバスクラリネットに1箇所だけ出現する(下例参照)。

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クラリネットグリッサンドは実際には以下の動画のような演奏となる:

www.youtube.com

 

これの再現法は楽器によって異なるが、大別して2種類考えられる。すなわち、32分音符などの半音階等でノートを打ち込む方法と、ピッチベンドで対処する方法の2つである*1。上記実演でもわかる通り、クラリネットの場合はピッチベンドで滑らかに変化させる方がリアルに表現できると思われる。

上の譜例では、5半音分のインターバルを下降している。したがって、同楽器パートの音色ではベンドレンジを "5" に設定し*2グリッサンドの適用箇所において 0 から -1 に漸減させる。その後、次のノートが発音される前に再び 0 に戻すことを忘れないようにする。なお、-1 に振り切るタイミングは、記譜通りに概ね2拍目の頭に来るよう調整すればよい(下図参照)。

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*1:3つ目としてポルタメント (CC#65) を使う手もある。しかし Studio One の内臓音源 Presence XT では未対応のため残念ながら使えず(Prime版の制約か?)。

*2:異なるインターバルのグリッサンドが複数箇所出現する楽曲の場合はノート打ち込み型の方が楽かもしれない。

譜面解釈とMIDI表現 (5) ホルンのゲシュトップフト奏法

2016年のMIDI検定1級課題曲において、もっとも特異な音色指定は、ホルンのゲシュトップフト奏法である。

作曲者からのメッセージに簡単な解説が書かれていたが、私を含めて管楽器に馴染みのない人にとってはこれだけでは皆目見当がつかないので、YouTubeに多数上がっているチュートリアル動画などを積極的に探して耳で確認する必要がある。

スコア上の表記

ゲシュトップフトの指定は、下例のように音符の下に小さく"+"記号が付く。

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ゲシュトップフト奏法の基本と音色

英語では stopping / stopped horn と言うのが一般的なようである。奏法は、管に握りこぶしを入れるため*1、ミュート用の器具を装填するミュート奏法とは厳密には異なる。しかし、サウンドとしては多くの場合両者ほとんど区別がつかない印象も受ける(専門家には怒られそうだが)。

ゲシュトップフト - Wikipedia

奏法と音色効果については、数ある中でも下記の教則動画が一番わかりやすいと思う。聴いてみると明らかなように、音色はミュートしたトランペットの音にとてもよく似ており、高音域の金属的な倍音を伴うようになる。

www.youtube.com

ゲシュトップフトとミュートの比較相違と使い分けについては以下のインタビュー動画が非常にわかりやすかった。ゲシュトップフトは管に入れた手で細かく共鳴を調整できるので、厳密に音程をコントロールしなければならない旋律を弾くような場合はミュートよりも有利であること、音色としてはミュートの方が高音の伸びが良く (cut through) 若干くっきりとしていること、などがポイントであろうか。

www.youtube.com

どうシミュレートするか

上記より明らかなように、ゲシュトップフトはMIDI表現ではなくて音源音色の問題であり、要はそのものズバリな音色があればそれを使えば済む話である。しかしそうでない場合は、類似音色で差し替えるか重ねるほかないだろう。ほとんどの場合、ミュートのホルン音色があればそれで代用し、細かなニュアンスはエフェクトで加工対応ということでも特に問題ないと思う。

私の現在の環境ではミュート・ホルンの音色が見当たらなかったので、下記 Orion Sound Module 無償版に入っている音色 "Brass - French Horn" を Tracktion 5 で再生してWAVに書き出したものを再度 Studio One (Prime) に取り込んでミックスした。この音色は高音のエッジが立っていて、柔らかいストレートのホルンよりはミュート・ホルンに若干近い。しかしこれだけでは物足りないため、苦肉の策として Muted Trumpet の音色を微かに混ぜることでなんとかゲシュトップフトの風味を出した*2

icon.jp

*1:ただし、低域での手動調整は難しいので、通常は専用器具を用いるようである。

*2:シンセのブラス音色を加工して重ねる等のテクニックも考えられるが音色調整にさらに時間を要すると思う。

譜面解釈とMIDI表現 (4) トリル

MIDI検定1級課題曲では、トレモロ (tremolo) と並んでトリル (trill) も頻出表現の一つである。2016年課題曲では、ピッコロ等管楽器パートに1箇所出現する(下例参照)。

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通常は、親音符からスタートして2度上の音*1と素早く交互に弾き、最後のみ3連符にして親音符に戻ることで終止する。スピードは楽曲によりけりだが、通常は16分音符か32分音符とすることが多いようだ*2

上記譜例では、トリル記号の上に小さくシャープの臨時記号が追記されている。ピッコロだけ親音符がB3で2度上の音はC4となるが、さらにもう半音上げてC#4と指定する例である。したがって、上例の場合は親音符B3とC#4の組み合わせで奏でることになる。以上より、MIDI打ち込みの例は下図のようになる(32分音符で演奏した場合)*3。 

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MIDIで再現する際、機械的な印象をできるだけ避けるために、ヒューマナイズを適用して発音タイミングを微妙にズラすのも一法である(出だし最初のノートは除く)。ただし、刻んでいる各ノートが重ならないように注意する。

*1:ピアノの鍵盤で言うと、隣り合う白鍵同士の関係。

*2:詳しくは、楽典.comの記事を参照。

*3:1級1次審査では、最初の親音符のピッチとタイミングだけチェックされると思うので、後は自由に表現できる。スピードを途中で変えるような演奏も考えられ、16分音符で始まって途中から32分音符にするなどの工夫も可能。

苦境のSoundCloud

SoundCloudの経営が危機的状況にあることは以下の過去記事で少し触れた通り、すでに周知の事実である。

daw-jones.hatenablog.com

 

これに加えて、つい先日大規模なリストラ策が公表された。

www.itmedia.co.jp

元ネタはBloombergの配信ニュースである。

www.bloomberg.com

 

Bloomberg記事の末尾パラグラフ(以下引用)で締め括られている通り、SoundCloudに限らず音楽コミュニティのフリーミアム・モデルはどの業者も総じて収益化に辿り着いていない惨状が露わになっている。呼び水としてのマーケティング・ツールにこそなれ単独での事業化は相当厳しい印象を拭えない。

Pandora Media Inc. has never had an annual profit, and just sold a minority stake to online radio company SiriusXM. Spotify’s losses have grown despite rapid consumer adoption. Meanwhile, companies such as Apple and Amazon.com Inc. use music to draw users for their broader businesses.

こうした収益化に苦しんでいる状況は、Tumblrの先行き不透明感とかなり重なるものがあり、以下の New York Magazine 記事はいろいろと考えさせられた。あくまで結果論だが、SoundCloudにしてももっと早い段階で有料モデルを主軸として導入した方がよかった可能性はある(スパム対策も含めて)。

nymag.com

追記 (7/14):

上記大規模リストラ策公表後のフォローアップ記事が TechCrunch に上がっていた。社員の生々しいコメントが取材されている。

想像以上に厳しい状況のようで驚愕した。キャッシュは50日持つか持たないかのレベルにも関わらず、大手他社による買収策は除外して独立を保つことに固執しているようで、社員の士気も地に落ちている。

破綻後にタダ同然で大手に吸収される可能性もあるが、リニューアル等の目的で一時的にせよサイトが閉鎖されるケースもありうるのではないか。バックアップ取ってないユーザは早めに確保した方がいいかも。

jp.techcrunch.com

techcrunch.com

%表記から値(バリュー)表記への変更 (Studio One)

Studio One の知っているようで知らないかもしれない小技について2回目。

Studio One でのベロシティやコントロール・チェンジなどの編集において、レベルの表記はデフォルトではパーセント単位(0%〜100%)になっており、MIDI検定等への対応で苦慮する場合がある*1

実はこの表記は切り替え可能で、ベロシティなどのゲージ領域で右クリックし、"Percent" か "MIDI" のいずれかを選択できる。デフォルトのパーセント表記ではなく値表記(0〜127)にしたい場合は、後者の "MIDI" を選ぶ(下図参照)*2

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蛇足ながらベロシティについては、選択範囲のノートに対して一括変更を適用することも可能である。ノート選択後に右クリックでコンテキスト・メニューから Velocity を選ぶと、下図のような一括編集パネルが開く。たとえば、現状の半分の値にしたい場合は、Compress 項目において "1:2" と入れる。

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自主制作上はパーセント表記でもまったく問題なく、またMIDI検定1級では受験者が自由に表現可能なのでこれもパーセント表記でなんら支障はない。

しかし、強弱記号は種類がそこそこ多い上に、個別のノートにアクセント記号も付くため、拠り所としてなんらかの基準に従っておいた方があれこれ迷う必要がなく作業を円滑に進められる。なので、一応は協会推奨のルール*3に準拠しておいた方が楽であり、そのためには値表記の方が好都合である。

*1:MIDI検定1級は受験者の自由に委ねられているので大きな問題にはならないが、指定値入力が必須である2級実技の場合はこのままではちょっと困ると思う。もっとも、2級実技でのベロシティやコントロール・チェンジ等に関してはDominoで一括編集するという手もある(私はこのやり方を採用)。

*2:ただし、ピッチベンドについては常時 -1.0〜0〜1.0 表示である。

*3:mfを80とし、上下16ずつ加減する。たとえば、f は 96 (=80+16) とする。