DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

自動作詞作曲ツールのOrpheusプロジェクト

夏休みの自動作曲探求シリーズ第5弾。お手軽ツール編の最後を飾るのは、東大発祥の国産プロジェクトであるオルフェウス (Orpheus) である。

daw-jones.hatenablog.com

オルフェウスはあくまで学術研究プロジェクトであるため、いつまで公開が継続するか未知数であるという不安を抱えるが、もっとも同様の懸念は他のWebサービスでも免れない。

他ブログなどによるレビュー記事も多く、国産日本語ツールゆえに使い方は自明で特段説明を要しないと思うので、逐一操作ステップの解説は省略し、個人的に気づいた注意点と感想だけを述べる*1

www.orpheus-music.org

利用の前準備

利用にあたっては若干の関門がある。すなわち、ユーザ登録が必須で、その際にプロフィールを100文字以上入力しなければならないこと、また人力による承認審査を受けるせいで登録完了・利用開始までに最低1日を費やすこと、である。どうも過去に2chユーザから目を付けられ散々嬲られた経緯があり、荒らし・濫用対策に神経を使っているようである。

あと、同サイトはSSL/TSLによる暗号化をサポートしていないなど、セキュリティ面で不安がある人は使わない方がいいかもしれない。あくまで学術研究サイトだから商用サイトほどの厳密なセキュリティ管理は期待できないので念のため*2

作詞ありきのツール

このツールの最大の特徴は、自動作曲のための主たるインプットが日本語歌詞であるという点だ。すなわち、歌詞を言語解析した結果を作曲合成のための下地として用いる。しかし、一からオリジナルの詞を作るのはなかなか難しいので、言語処理精度に限界はあるものの、キーワード指定による自動作詞も可能となっている(ユーザによる編集可)。

なお、歌詞は楽曲生成時に初音ミクばりの合成音声でそれなりの抑揚を付けて歌ってくれる。内外の数ある自動作曲ツールでもここまでやってくれるのはおそらくオルフェウスだけであろう。

自動作曲

作詞が完了したら、あとはもう「自動作曲」のボタンを押下するだけとなるが、まともな結果を得るにはやや面倒な手順を踏む必要がある。

初期設定スタイル

基本の作曲モチーフとして、「初期設定スタイル」を指定する必要があるが、これが実に500種類ほどもあって判断に迷う。とりあえずシステム側で自動的に(おそらくランダムに)設定されるスタイルをそのまま選択してもよかろう。

楽曲構成の決定

スタイル設定後に、楽曲の大まかな構成をパラメータとして指定する必要があるが(下例参照)、これはある程度以上の音楽理論等の知識を要求するため、ズブの素人だと無理とは言わずとも、結構煩雑かつハードルが高いように感じるかもしれない。完全にシステムお任せでもいいのだが、たぶんそれだと一定レベル以上の品質*3の楽曲は生成できないようである。

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MIDIデータ

公開共有した楽曲に関しては、他同種のサービス同様にマルチトラックのSMFをダウンロード可能である。珍しいことに、チャネル10のリズム・トラックについては、各楽器パーツごとにパラアウトして別個のトラックに書き出している。 

私的雑感: これは案外上級者向けか

作詞から入るというモデルはなかなかユニークとは思うが、個人的にはかえって複雑化したという印象がある。作曲だけでさえ難しいのに、全然別のスキルである作詞までもわざわざ呻吟せねばならぬとはキツイ。たとえば、技術点をクリアできない等生成楽曲に満足できない場合、楽曲の構成パラメータのみならず、結局のところ元の作詞からやり直しを迫られるという厳しい一面もある。

あと自明なこととして、学習データがNHK紅白歌合戦で演奏された楽曲であることから、生成結果は大なり小なり典型的な歌謡曲っぽいものばかりになるという傾向というか限界がある。それを承知の上ならば、歌謡曲生成機としては使える。または、もう旬は過ぎたかもしれないが、ボカロ曲生成ツールとしても使い道はありそうだ。

しかしどう使うにせよ、自動作曲と言いつつも、ユーザ側にある程度の作曲の素養がないと使いこなすのが難しいというちょっと矛盾した性格を持つツールであるように感じられた。

*1:機能詳細はマニュアル・ページを参照。

*2:登録番号 (ID) を申請する際に指定した返信用メールアドレスの管理や扱いがどうなっているのかやや心配ではある(捨てアカ使用が無難か)。

*3:技術点1.0以上で公開可能と判断される作品。ちょっと触ったぐらいではなかなか超えられない。