DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

MIDI検定1級演習 2017年課題曲 (5) エレキとピッチベンド

MIDI検定1級2017年課題曲の要所ポイントを書き記すシリーズの最後として、今回はエレキのパートに注目してみたい。

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本曲のエレキに関しては、大きく分けて2種類の勘所がある:

  • ピッチベンド・コントロールを使ったベンディング(チョーキング)の表現
  • 音色切り替えとSMF作成上の対応策

このうち後者の音色問題については、汎用テクニックとして切り出し別個の記事で改めて書くことにし、今回は表現手法について触れる。

ベンディングの指定とピッチベンド・コントロール

本曲におけるディストーション・ギターのパート(Electric Guitar 1)では、しゃくり上げなどのベンディング奏法が譜面上で斜線明記されており、いずれもピッチベンド・コントロールを駆使することになる(下記の譜例参照)。

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この辺は2級合格者にとってはすっかりお馴染みの技法であって、特に難しく感じるところではないと思う。なお、ベンドレンジは"2"で問題ないはずである。Studio One での入力方法としては、例えば以下のようになろう*1

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1次審査上の扱いがどうなるかだが、ここは譜面でベンディングの指定があるわけだから、ノート入力せずに正しくピッチベンド・コントロールのデータが入っておれば問題なかろう。逆にピッチベンドのデータがないと減点対象になると想定される。

モジュレーションも忘れずに

1級課題曲の譜面ではどのパートも通常はヴィブラートが明記されていないことが多いのだが、エレキは譜面に指定はなくとも音が長く伸びる箇所では適度にモジュレーションを掛けた方がよい(音源音色で対応している場合は除く)。さもないと平板で機械的に聴こえ、ややもすると滑稽な印象を受けるからである。

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*1:トラック・インスペクターの設定で再生時に1オクターブ下げているので、譜面照合の都合上MIDIデータは敢えて記譜通りに打ち込んでいる。

macOS版GarageBandが10.3へアップデート

昨日から本日にかけてmacOSGarageBand(以下GB)のアップデート版が提供され始めたようなので備忘録としてクイック・ノート的に書いておく。

www.macworld.com

音源ライブラリとループ素材が増強

今回はUI改善や機能強化というよりも、音源ライブラリやアーティスト・レッスンといったコンテンツの増強が主眼となっているようである。

マスコミ報道ではアーティスト・レッスンの無償化が随分と注目されているようだが、これは個人的にはほとんど関心がない。

私個人としては、今までiOS版GBでしかサポートしていなかった楽器類(和太鼓や琴など)がmacOS版GBにも反映されたことが一番嬉しい。変更リスト中に記載されているiOS版との互換性改善というのは、おそらくそれも含んでのことだと思う。

因みに、以下の過去記事でも書いたように、ここで言う互換性というのはちょっと曲者で、iOS版GBで作成したソング・ファイルはmacOS版GBで読み取ることができるが、その逆は無理である。私が検証した限り、その点は今回のアップデートでも変わっていないようだ。しかし外部プラグインなどの制約があるためこれは致し方ないところだろうか。

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困ったトラブル

今回のアップデートを適用すると、セキュリティー絡みと思しき理由でサードパーティー製のAUプラグインが一斉に読み込めなくなってしまい、頭を抱えている状況である。

これはApple側の対処を待った方がよいのだろうが、私としては LoudMax などの愛用プラグインが使えなくなったので、当面は少なくともミックスダウンやマスター編集での使用は保留せざるを得ない。

追記 (2018-06-29)

その後すぐに修正アップデート版10.3.1がリリースされ、上記のAUプラグインにかかわる読み込みトラブルは解消された。

MIDI検定1級演習 2017年課題曲 (4) トレモロとトリル

下記記事を受けて個別の注目箇所を引き続き書き記していく。

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今回は、バイオリンのトレモロ (tremolo) とトリル (trill) につき復習を兼ねて再度書き記す。

両者とも1級では何度もお目にかかる必出表現だが、私が調べた範囲では2級実技では取り上げられたことがないため、1級挑戦者は課題曲を使って一度は演習しておいた方がよいと思う。

トレモロ

トレモロの基本は下記記事の通りである。

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2017年課題曲では、第1および第2バイオリンとヴィオラの3パートで35小節目に1箇所のみ出現する。ここでは8分音符に対して旗が1本追加の状態なので、結局16分音符刻みということになる。

しかしながらBPM=136でこの刻みだと、アタックの弱いレガートのバイオリン音色ではほとんど聴き取れないと思う。より丁寧に表現するのであれば、アタック強めの別音色で追加補強してもよいが、他のパートと重ねて再生すると結局聴き分けられないので、補強せずにそのままにしておいてもよいかと思う。

トリル

トリルの基本は下記記事の通りである。

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2017年課題曲では、第1および第2バイオリンの31小節目から34小節目にかけて1箇所出現する。4小節にわたり強弱を伴ってかなり長めに演奏し、目立つ要所なので手抜きはできないところである。

上記の過去記事に補足すると、親音符に対する2度上の音は、特に指定がない限りはあくまでスケール上の隣り合う音ということである。本曲の場合は C minor のスケール上の音を選ぶ。

刻みは本曲では32分音符が妥当であろう。一般的には楽曲のテンポ次第なので、自分の耳で聴いて確認し、判断を下すことになる。

使用音源にもよるが、強弱表現に関してはベロシティだけでははっきり聴き取れるほど明確に再現しきれないと思うので、トラック・ボリュームをオートメーションで上下させてメリハリつける必要がある。特に fp 記号はベロシティ単独では表現できない。この辺はバイオリンのみならず他の楽器パートも同様である。

新しいフリーのサウンド素材

最近になって LANDR と NI (Native Instruments) の大手業者からロイヤルティ・フリーのサウンド素材がダウンロード利用できるようになったので、備忘録がてらに紹介しておきたい。サウンド・ライブラリーもクラウドの時代に移行しつつある動きが垣間見えると思う。

LANDR Samples

こちらは(今のところ)すべて無償の割には提供素材の数がかなり多い。今現在はLANDRのコアサービスであるマスタリング処理への呼び水的な位置付けであるように思うが、将来的には一部にせよ有償化される可能性がなきにしもあらず。

LANDRの既存ユーザは、自分のアカウントから「サウンド」リンクを辿ってログイン・アクセスできる。また、各サウンド・パックは一括ダウンロードが可能である。

Studio One Prime 版や GarageBand の付属ループ素材では飽き足らないところを補完してくれそうに思う。お試しでいろいろダウンロードしてみて創作意欲をかき立てるにはうってつけである。

samples.landr.com

Sounds.com

これはかの Native Instruments 社による新サービスで、なかなかジャンルが豊富な上に高品質である。ただし、こちらについては無償素材はごくごく一部で、基本は有償プランでの月単位サブスクリプションということになっている。どちらかというとプロ向けかもしれない。

こちらはなぜかパックごと一括ダウンロードができず、一つずつファイルを個別に落とす仕様になっている。

sounds.com

容易に想像できると思うが、NI社基幹製品との連携やプラグインを介したDAWからの統合アクセスを視野に入れているように見える。なお、今現在はまだベータ版の段階にあり、有償プランはUS限定となっている模様である。

djmag.com

MIDI検定1級演習 2017年課題曲 (3) ピアノの重複ノート

下記記事を受けて個別の注目箇所を引き続き書き記していく。

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今回は、ピアノ・パートに出現する若干トリッキーな和音演奏の小節を取り上げる。具体的には、以下譜例のように高音部と低音部で一部のノートが重複しているケースである。

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これを譜面通りに素直に打ち込むと、それぞれC3とB2のノートが明らかに重複してしまう。しかし重複ノートは減点対象になるため、このままではまずい。

ゲートタイムは評価対象外であることを念頭に、この場合の重複ノートを回避する方法としては、例えば以下のようなMIDIノートの展開法が考えられる。一応これでピッチとタイミングは譜面通りとなる。

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なお、私はピアノの専門家ではないので、実際の運指がこの通りかどうかは定かではない。またこのような紛らわしい記譜法が一般的であるかどうかもよくはわからない。いずれにせよ、初心者は一瞬戸惑うところだと思う。

 

BandLabを試してみる

W3Cの Web Audio/MIDI API 仕様の普及により、いわゆるブラウザーDTMを提供する各種サービスが花盛りだが、そのうちの一つである BandLab を試してみたので備忘録がてらに感想などを書いておきたい。

ちなみにBandLab社は、Gibsonから Cakewalk を買収して事業継承したシンガポールの会社である。

www.dtmstation.com

本サービスは、現時点でDAW編集機能を使うためにはブラウザーとして Chrome が必要となる。DAW以外については他ブラウザーでもアクセスは可能である。

sleepfreaks-dtm.com

ソーシャル機能が主眼

BandLab含め、この種のウェブ版DAWはほぼ例外なくソーシャル機能(楽曲共有やコラボレーション支援など)を組み合わせることが常套手段となっている。あえて極論すれば、ブラウザー上のDAWは販促提灯のようなもので、ビジネスの成否はあくまでソーシャルの側面たるユーザ・コミュニティがどれだけ盛り上がるかにかかっているとも言える。逆にソーシャル機能を必要としないユーザは、素直に GarageBand などを使った方が高度な創作ができると思う。

競合サービスとしては、以前取り上げたこともある Soundtrap が代表的なところである。正直言ってDAWの機能としては Soundtrap の方が充実しているように思う。ただし、Soundtrap はプロ寄りで、無償プランだと使用できる音源やエフェクトなどに大きな制約があり、やや敷居が高い。その点、BandLab は付属のループ素材なども(今のところ)全部無料公開しており太っ腹である。初心者がお試しするなら BandLab の方が優しい・易しいかもしれない。

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ウェブDAWの機能的な注意点など

上述の通り、有効活用の目玉はコミュニティ活動と言えるため、ブラウザー駆動のDAWにデスクトップ並みのあまり多くの機能を期待しても仕方がないことは承知だが、いくつか気づいた点などを記しておく。

MIDI打ち込みはしんどい

MIDI編集機能はあるものの荒削りであまり使い勝手が良いとは言えない。この機能を使うのは現実的ではないので、本サービス外で作成したMIDIデータをインポートする方が手っ取り早いと思われる。

ループ素材は充実

ループ素材はリズム系中心にそこそこ豊富だが、シンセフレーズ系はちょっと少ない印象を受ける。ただし上述の通り、全部無料で制限なしに使える点はよい。おそらく今後さらに充実する可能性はある。

現時点では、テンポの自動調整はできるが、トランスポーズできないので加工の柔軟性は欠ける。したがって、フレーズものはあらかじめキーが合致するものを選んで組み合わせる必要がある。この辺のキー・マッチングは面倒臭いので、その必要がないリズム構築の試作にふさわしいかもしれない。

各ループ素材はそのままWAVファイルでローカルに落とすことができる。しかし、音質は 44.1kHz/16bit なので、手持ちのDAWで追加編集や加工するにはちょっと粗いのが難点である。

CPUを大消費

ブラウザーDAWの常なのだろうが、CPUパワーを非常に食うため、非力なノートPCだと正直苦しいだろう。デスクトップ版DAWに対する不利な欠点の一つとも言える。驚くほど軽快な Studio One に慣れている身としては許容の範囲を超える。

結論

コミュニティは盛り上がっている方のようだから、ソーシャル機能を追求したいユーザであれば試す価値はあると思う。Soundtrap などと比較検討すればよいだろう。ソーシャル機能は特に必要ないユーザは、それこそ GarageBand で十分だと思う。

 

MIDI検定1級演習 2017年課題曲 (2) パーカッション

以下記事の続きで、MIDI検定1級2017年課題曲の演習というテーマに沿って、今回より個別具体的な打ち込み表現のポイントなどを追々書き足していくことにしたい。必ずしもMIDI検定に限定されない制作一般的なtipsも多く混ざっていると思うので、自主制作のヒントにもなるのではないか。

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今回は、本曲の大きなバックボーンを構成するパーカッションについて考察する。

いつもと違う記譜法

上記概観記事でも書いたように、本曲では一般的なドラム譜あるいはパーカッション譜とは異なり、GMパーカッション・マップのノート・ナンバーに対応する音符をそのまま五線譜に記す書き方になっているが(下図は Guiro の例)、ある意味この方が親切であるように思う。

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このような記譜スタイルの場合は、再生音を確認しつつ通常のピアノロール画面で該当ノートを打ち込んで行けば特に問題ないと思う。

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Studio One では、通常のピアノールとドラム編集モードを随時切り替え可能なので、照らし合わせて確認すれば間違いがないと思われる。

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ノートの打ち込み自体は容易

やや拍子抜けするような安心材料としては、全部で8パートに分かれるラテン打楽器のどのパートもほとんど9割方同一パターンの繰り返しに終始し、打ち込み自体はすぐに出来上がるという点である。

すなわち、同一パターンのように見えて細部が微妙に異なる引っ掛けもどきがない(と言ってよいレベル)。一見すると分量は多いのだが実質的には大したことなく、表現が細かくなる傾向にあるドラムセットがなかったのは不幸中の幸いといったところか。

ゲートタイムをどうするか

上例のような記譜法の場合に、8分音符や4分音符などをその通りに解釈してゲートタイムを入れるべきかどうかが迷いどころとなる。

しかし、ドラムおよびパーカッション音色の場合はゲートタイムは有効でない(ことが普通である)から、すべて同じ長さで打ち込んでしまっても問題ないと思う*1。たとえば16分音符の長さで統一するなど。その方が打ち込みの労力は格段に削減できる。どのみちゲートタイムは1次審査の評価対象外である。

表現上の勘所

セクションごとにベロシティの強弱が多様に変化しているので、アクセントを含めてこれをできるだけ忠実に反映させる点が重要だろう。ベロシティは1次審査の対象外だが、2次審査のことを考えると手を抜かない方がよい。

ベロシティを基本として、これに加えて一部の打楽器ではオートメーションでボリューム変化を付けた方がより表現が豊かになる*2。典型的にはティンバレス (Timbales) で、ソロ小節またはセクション節目などにおいては若干ボリュームを上げると効果的だと思う。

音源音色の選定

Studio One の Presence XT 音源を使用する場合は、パーカッション音色としてGM配列準拠の "Basic Kit"、"Classic Kit" および "Standard Kit" の3種を組み合わせて使用するとよい。一方で "Brazil Kit" などはGM配列ではないので本曲では使えないことに留意する。

ここは "Basic Kit" で統一して全8種の打楽器を鳴らせばよいではないか、と思うかもしれないが、楽器によって音色がチープでリアルではないものも混じっているので、使い分けた方が無難である。例えば、肝となるティンバレスは "Standard Kit" の音色がベストであろう。

FXチャネルでエフェクトの統一

各打楽器パートごとに8つのトラックに分かれ、いわばパラアウト (individual output) の状態になっているパーカッションに一体感を持たせるには、aux/sendトラックを一つ用意してそこで8トラックすべてをまとめたエフェクト*3を掛けると効果的であると思う。Studio One では「FXチャネル」と呼ばれるものである。

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Prime版では使えるエフェクトが限定的とはいえ、FXチャネルを追加するだけでも音に厚みが増してクリアな感じになる。

 

*1:なお2級実技では10ティック前後の長さに統一して入力することになっている。

*2:MIDIの CC#11 Expression を使う手もあるが Studio One ではオートメーションを使った方が楽である。Expressionはミキサー・ボリュームとの関係が明白ではなく、また Presence XT 側でいちいちモジュレーション・マトリックスの定義が必要となり面倒。私は以前の課題曲演習では Expression を使っていたが、検討の結果ボリュームのオートメーションに改めた。この辺は制作レポートに注記として書いた方がよいだろう。

*3:楽曲にもよるが、リバーブとコンプレッサーおよびEQの3つは必須かと思う。