DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

Python 3 エンジニア認定データ分析試験が来夏開始

ちょっと音楽関連から脱線してしまうが、以前から気になっていたPythonエンジニア認定試験・データ解析編のカリキュラムと実施スケジュールがようやく決定、つい2週間ほど前に公表されたようである。昨年の基礎編スタート時とは違ってメディアではあまり報じられていない様子なので一応取り上げておこうかと思う。

www.pythonic-exam.com

年明けからベータ版試験を何回か繰り返した後、正式版試験の開始時期は来年夏頃とのこと。基本教材は先頃出版されたばかりの下記教科書が指定され、「第5章 応用:データ収集と加工」以外のすべてが出題範囲となる。

www.shoeisha.co.jp

上述書の目次で明らかなように、対象パッケージとしては、

  • NumPy
  • pandas
  • Matplotlib
  • scikit-learn

の4つで、特にscikit-learnの出題比率が大きい。やはり昨今のAI/機械学習ブームを考慮すると最低限これは省くことができないパッケージだと思うが、ニューラルネット(深層学習)は対象外ということになる。データの前処理、SVMや決定木、アンサンブル学習などの割と古典的な機械学習、モデルの予測精度評価などの基礎的なパフォーマンス分析が中心となると思われる。

昨年ちくりと批判したように、基礎編はほとんど受験価値がないという感想を抱かざるを得なかったが、今回公表されたデータ解析編は試してみる価値はありそうだ。

daw-jones.hatenablog.com

 

デジタル信号処理の基本学習

DAWを使ったオーディオ編集やシンセによる音作りをやっていると、習熟レベルを一段上げるためにはどうしてもデジタル信号処理の基本を理解する必要に迫られると思う。

基本中の基本事項に関しては、MIDI検定の公式ガイドブックでも第4章から第5章あたりにかけて一通り解説はされているがいささか表層的で、試験のための丸暗記で済ますと消化不良のまま正しい知識を身につける機会を失う。

そこで別途追加的に自学自習を進める方が望ましいのだが、YouTube上にチュートリアル動画が山のようにアップされているので、これを利用しない手はないと思う。いきなり数式てんこ盛りの専門書ではハードルが高過ぎるだろうから、自分に合ったレベルの具体例豊富な解説動画をいくつかピックアップするところから始めると入門しやすいのではなかろうか。例として以下の動画チュートリアルを挙げておきたい。

www.youtube.com

手を動かし、音を聴いて覚えるという意味では、プログラミング実習を伴う講座が望ましい。上記チュートリアルでも Octave を使った簡単なプログラミングによってサイン波の音色を自分で確認できる。上例では、サイン波を1秒だけ生成してWAVファイルに書き出す。fsはサンプリングレートで、freqは音の高さを表す周波数となっている。freqを変えて出力してみるとピッチが変わることがわかる。

正式なMOOCの講座では下記Courseraのコースが良いかもしれない。これもPythonによるプログラミングで実際に手を動かして学習できるようである。私はまだenrollしていないが、追って受講レポートなどを書いてみたいと思う。

ja.coursera.org

 

10月の楽器フェアで種々のAMEI主催セミナー

今年の「楽器フェア2018」は、以下の通りに10月19日から21日の3日間、東京ビッグサイトにて開催されるが、AMEI主催セミナーも充実した題目が揃っており、MIDI検定受験者やDAW/DTMに興味ある人はこぞって参加されるといいと思う。と書きつつ首都圏在住ではない私自身は参加できそうにないのが残念である。

musicfair.jp

今年のセミナーで個人的に目を引いたものをいくつか取り上げる。まず一発目の「Future MIDI Expansionの可能性について」でMIDI規格の将来拡張仕様がレクチャーされるが、例えば楽器同士の音色パラメータの相互連携が正式にサポートされるようである。今までSysExメッセージを使って各メーカー毎独自仕様(というかハック?)でデータのエクスポート/インポートをやってたところがMIDI統一規格として拡張されるようだ。この種の拡張仕様が正式版としてリリースされるのはもう少し先のことになるだろうが、将来的にMIDI検定3級・2級試験に反映される可能性が高いと予想される。

daw-jones.hatenablog.com

定番のMIDI打ち込み講座は「基本中の基本から始めるMIDI打ち込み講座」としてMIDI検定4級の入門レベルで開講される。過去に一時期やっていたようなMIDI検定1級レベルの上級者向けセミナーは最近ではやらなくなっている。

daw-jones.hatenablog.com

MIDI以外では「AIエンターテインメントの未来」というレクチャーは正に旬の話題であろう。音楽もAIと無縁ではない現況を反映しているようでとても興味深い講座だと思う。

AIと言えばプログラミングとの関連では、Scratchを活用した講座が2つ提供されるようである(「楽器を使ってプログラミングを学ぼう!」および「Scratch×ボカロ!STEM教育におけるMIDIの活用」)。ただし、当然ながらこれらは子供向け、または教育関係者や親御さん向けのチュートリアルということにはなるが。

scratch.mit.edu

追記 (2018-10-01)

上記のMIDI拡張仕様に関するセミナーについては、「DTMステーション」でも紹介されていた。なかなか興味深いデモンストレーションが披露されるようだ。

www.dtmstation.com

w-inds.が投げかけるJ-POPガラパゴス化への疑問

1ヶ月ほど前Yahoo!に掲載された音楽ユニットw-inds.のインタビュー記事が個人的に結構刺さったので備忘録がてら紹介しておきたい。

news.yahoo.co.jp

特に最後の方の以下の一節は、プロアマ問わず一応は念頭に置いておいた方がよいであろう情勢認識だと思う:

アジア、世界を見据えるw-inds.だからこそ、一歩引いた目線でJ-POPが見える。「J-POPの枠」とは、具体的にはどんなものだろうか。橘はこう解説する。

サウンド・メイキングですね。J-POPと海外の音楽では作り方が全く違うんです。海外では音数の少ない音楽が多い。J-POPは音数もコード進行も多すぎるんです。詰め込みすぎて、情報が多すぎるんです」。

アメリカを中心として、海外では楽曲の伴奏の音数も、使われるコードも減ってきている。どんどんシンプルになってきているという。それに対して、J-POPでは情報量が多い状態のまま。

「J-POPは何がメインディッシュかというと、基本的には歌詞だけなんですよね。でも、海外の楽曲を幅広く聴いていると、歌詞の場合もあれば、ヴォーカルの場合もあるし、ドラムのキックの場合もある。いろんなパターンがあるけれど、やっぱり音数は少なくて、アーティストとメインディッシュが目立つ作り方になっているんです」

J-POPの特異性というか異形性みたいな批評は以前から割とよく目にする指摘ではあり、複雑すぎるコード進行という観点では当ブログでも一度取り上げたことがある。

daw-jones.hatenablog.com

しかし結局のところコード進行に限らず、「(詰め込みすぎて)J-POPでは情報量が多い」という一言に集約されている感は大いにあり、非常に的確な指摘だと思う。これに対して海外楽曲ではアレンジ面でもトラックや音数はかなり少なめというのは私も常日頃感じていた傾向ではある*1

この辺りは良し悪しというよりも有り体に言えばカルチャー・ギャップなんだろうが、w-inds.の危機感によればその乖離は収束するどころかますます大きくなっている恐れがある。日本語の壁もあるような気がしないでもない。アニソンやアイドル・ブームの功罪。その底流にはカラオケ文化。考えれば色々と根深い。

因みにw-inds.TBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」本年6月12日放送回にゲスト出演しており、宇多丸師匠が一押ししていた。不勉強ながらその時まで私は彼らの存在をまったく知らなかった。

www.tbsradio.jp

彼らは実は昨年に、日本の音楽家としては珍しくもステム・ファイル提供の上でかなり思い切ったリミックス・コンテストをやっていたのだが、無知な私は「これ誰?」的な愚痴でひとしきり腐していた。むろん今は反省している

www.w-inds.tv

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*1:たとえば、Metapopでリミックス題材として上がってくる楽曲を聴いていてもミニマルなアレンジや展開を頻繁に感じる。

Jukedeck再訪

先週末に Sleepfreaks でAI作曲ツール・サービスの一つである Jukedeck が紹介されていた。ちょうど1年ほど前に私も同サービスを取り上げたことがあったので、懐かしさ(?)を感じつつも再度軽く振り返ってみることにしたい。機能その他仕様に関しては特に大きな変化はないように思われる。

なお、BGM程度の生成には使えそうだという結論は奇しくも私と同じ見解である。また生成結果の著作権の帰属が要注意である点は私の記事同様にきちんと指摘されている*1

sleepfreaks-dtm.com

daw-jones.hatenablog.com

Jukedekの残念なところはMIDIデータが落とせない点であるが、ベータ版のAPIを使えばMIDIデータも利用可能なようだ。ただし、まだ招待制の段階らしく、APIのアクセス・キーを申し込んだユーザ全員に解放されるわけではない。また、おそらく正式のプロダクト版リリースの時点で有償プランに移行する可能性が高いと想定される。

www.jukedeck.com

この種のAI作曲ツールは各社まだまだ試行錯誤中とはいえビジネスだから有償であることは一向に構わないが、個人的にはプラグイン・ソフトの形態でDAWとシームレスに連携できる製品を期待したい。ここを避けると結局DAWメーカーの方からバンドル形式でAI支援ツールなどを出してくる可能性が非常に高く、Waveform とか Studio One 4 などにはそういった萌芽がすでに見えている。

あと案外見過ごせないのが Logic Pro X / GarageBand(以下GB)で、正直言って初歩的な Jukedeck レベルのものであれば数年後にGBが機能追加していると考えられなくもない。というのも、リズム系の自動生成機能についてはすでに Drummer という形で実装されているからである(AIかどうかはともかく)。

*1:ロイヤルティ・フリーであっても買取以外は著作権はJukedek社に帰属する。現行プランでは著作権買取価格は1曲あたり$199である。この価格を高いと見るか安いと見るかはユーザの立場によって異なると思うが、プロ以外はハードルが高いだろう。

T7の新機能注目点 (Tracktion)

本年度MIDI検定1級の本番に重なったせいもあり、T6からT7へアップグレードしてから大して触らぬまま1ヶ月程度間が空いてしまったが、先日に新機能の概要をざっと把握する機会を得たので備忘録がてら簡単にまとめておこうと思う。

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なお、T7の新機能や改善点の全容に関しては、以下の公式チュートリアル動画リストで網羅されているので、英語に抵抗がない人は参考にされたい。有償版は約2年前にリリースされているので簡単な機能紹介記事などはネット上にたくさん転がっているが、下記公式チュートリアルさえ見ておけば理解十分だろうと思う。

www.youtube.com

この中から特に個人的な注目機能としては、以下の2つに絞られる。

Clip Layer FX

オーディオ・クリップ単位の編集において、エフェクトやピッチ修正、オーディオ・ベンド編集(Tracktionでは"Warp Time"と呼ぶ)などを複数重ねて適用できるようになった。これはかなり強力な機能で、特許出願中とのことである。

www.youtube.com

Warp Time を含め、個別の編集機能の多くはT6でもすでに備わってはいたが、それらを重層的に合成できるようになったので、いろいろとユニークな加工編集ができると思われる。ただし、あまりやり過ぎるとちょっと修正を加えるだけでもCPUがフル回転する羽目になる。

因みに、"Warp Time"と同様のタイミング補正機能は Studio One Pro版にも搭載されているが、残念ながらPrime版では利用できない。意外なことに、GarageBand には同様の機能が入っている(知らない人は多いかも)。また、オーディオ・クリップ(イベント)単位のエフェクト (FX) 適用についても Studio One のPrime版では割愛されている。

LFO Modifier

トラックのボリューム/パンや、その他エフェクトのパラメータに対して、サイン波やノコギリ波等のプリセット波形を適用して自動制御する機能である。一般的なオートメーションの拡張機能といってよいだろう。UIが優れていて直感的に操作しやすい。

www.youtube.com

これは Studio One で言えば、内蔵音源 Presence XT におけるモジュレーション・マトリックスの定義設定に該当すると思う。Presence XT ではLFOは2器搭載でサイン波などの波形も選択できるようになっているが、モジュレーション・マトリックスはやや使い勝手が悪い (daunting) 印象がある。

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オーケストレーション入門講座

8月31日よりSleepfreaksでオーケストレーションの入門講座7回シリーズが始まったようで、これは来年以降のMIDI検定1級受験者にとっても結構助けになる参考資料ではないかと思う。

sleepfreaks-dtm.com

何度かこのブログでも書いたように、MIDI検定1級の課題曲は作編曲者の嗜好により生楽器主体のクラシック寄りな曲調ばかりなので、オーケストラ楽器の基本的な特徴や効果的なミックスダウンの方法などは必須の予備知識となっている。

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私がやったように、過年度課題曲演習をやる中で自力でいろいろと資料を漁って勉強するというのも一つの方法ではあるが、上記のチュートリアルで専門家からオーケストラ音源を使った具体的な方法論を伝授されるのであれば、これ以上に効率的・効果的な学習方法はあるまい。残念ながら今年の1級受験には間に合わなかったが。

EDM等の一般制作においてはオーケストレーションなど一見関係なさそうに思いがちだが、アレンジや音作りへのヒントになる可能性はあるだろう。常識として習得しておいても損はないと思う。