DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

MIDI検定試験の意義について

DTM全般に関してはズブの素人で、DAWを触ったことすらなかった私も約2年がかりでMIDI検定3級から2級、そしてついに1級まで到達を果たすことができたのだが、これまでの学習歴やスキルアップの来し方を振り返ってみて、私自身が考えるMIDI検定試験の意義を改めて述べてみたい。今後受験を検討される方の賛同を得られるか否かは不明だが、少しでも動機付けに寄与するか、またはつまらない誤解を解消する効果があれば幸いである。

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なぜMIDIなのか

モダンなDAWの登場によってMIDI打ち込みはもはや時代遅れである、というような意見をネット上で時折目にするのだが、これは正しい理解に基づいていない。

確かにオーディオ録音編集だけで楽曲制作する場合はMIDIは不要である。しかし、そうでない多くの場合においては、MIDIを用いて演奏データをコントロールし、音源を鳴らす仕組みがDAWの標準仕様になっている。したがって、DAWを上級レベルで使いこなすことを目指すならば、依然としてMIDIと無縁でいることはできない。

たとえば、どのDAWにも搭載されているピアノロール編集がMIDIと密接不可分であることを考えると、MIDIの基本仕様を知っておくことは少なくとも損ではないはずである。

MIDI検定試験はDTMを学ぶMOOCみたいなもの

オーディオ編集の比重が大きくなったためにDTM楽曲制作はかつてほどMIDI打ち込みありきではなくなっているとはいえ、ソフトシンセ等音源の発音・表現制御においてはMIDIの知識を必要とする。その意味では、MIDI検定試験はいわば「MIDIから入るDAWおよび楽曲制作入門」であり、技術的な基本を過度に省略することなく初心者がDTMを学ぶための格好の学習コースであると思う。

もちろん実際はオンライン・コースではないのだが、所定の教材に従って自学自習で節目となるいくつかの試験をパスしながら一定レベルの学習過程を修了する、という点では昨今流行りのMOOCにとてもよく似ている。2級実技試験と1級試験はいわば capstone project と言ってもよい。この種のコースウエアの利点は、独りよがりなつまみ食いをせずに自然と(半強制的に)システマティックかつ効率的な学習を経験できる点であり、それはそのままMIDI検定試験の学習過程にも当てはまる。

結果よりもプロセスがはるかに重要

実質的にはMOOCのような学習コースであること、また資格自体には市場価値が(残念ながら)ほぼない、ということを考え合わせると、自学自習の学習過程に大きな価値があるのであって、資格それ自体は目標達成の結果におまけとして付いてくるバッジ程度に考えておけばよい(この点も一般的なMOOCの修了証に類似する)。裏を返せば、MIDI検定資格そのものに意味がない等の外野席批判はirrelevantであって、自己満足で全然構わない。

学習コースという観点では、3級から2級2次実技試験到達までが中核で(特に2級が非常に重要)、1級はあくまで余禄という印象を受ける。公式ガイドブックに基づくコース内容としては、2級まで到達すれば、MIDIと組み合わせたDAWを使う基本的な楽曲制作のスキルは概ね体得できる体系になっているからである。なので、必ずしも全員が1級を目指すべきとは思わず、たとえばMIDI打ち込みスキルの習得だけであれば2級までで十分である。

 

2018年MIDI検定1級試験の合格者発表

本日25日、去る8月に受験した第10回MIDI検定1級試験の合格者受験番号が協会サイト上に掲示され、私も無事に合格したことを確認した。

MIDI検定1級受験番号発表

協会サイトの総評コメントや私が以前書いたレビュー記事の通り、本年の課題曲は音数がかなり少なかったので、難所である1次審査通過はほぼ間違いないとの確信はあったが、なにはともあれ一発でパスできて安堵の心境である(打ち込みの苦行はもう二度と味わいたくないですから)。

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今年は合格者が26名に上り、これは2010年第1回時の43名に次ぐ多さである。受験者数は不明であるがおそらく40名程度と推定され、仮にそうだとすると合格率は65%前後となり過去最高を更新する可能性が高いと思われる。それだけ今回の楽曲は例年に比べれば与し易かったと言え、私を含めて今年の受験者は(たまたまではあるが)幸運に恵まれた。

この辺で反省と総括をしたいところだが、細かいテクニカルな話は上述のレビュー記事ですでに書き尽くしたので繰り返しは避ける。なお、11月上旬に2次審査の評価シートが送付される*1ようなので、そのタイミングでミックス等音作り面におけるレビュー記事は改めて書いておこうと思う。

その他、MIDI検定試験受験の意義や、3級から1級に到達するまでの受験対策的なポイントを再度簡潔にまとめて書こうかとも思う。これらは今後受験を検討される方の参考になれば幸いである。

*1:これは1級試験の一番のお楽しみ。プロからどういった厳しい意見を頂くのか怖くもあり。

MIDI検定認定指導者資格について

当ブログのアクセス解析を見ていたらMIDI検定2級指導者資格に関するクエリーがたまたま混ざっていたので、認定指導者資格について一言触れておきたい。

AMEI認定のMIDI検定指導者資格は、MIDI検定2級以上の合格者に門戸が開かれており、4級指導者から入って3級指導者、そして2級指導者へと到達するコースになってる。いずれもAMEI主催認定講座の受講と試験合格が義務付けられている。

2018MIDI検定指導者認定講座開講のご案内

なお、本年度の指導者講座は、2級指導者講座が9月中下旬に実施・終了しており、4級・3級含めて新たな受講は来年度以降ということになる。

AMEI認定指導者を名乗り、公式ガイドブックを使ってMIDI検定受験講座を開くためには必要とされるようなので、一応は業務独占資格の衣を纏っている。しかし、認定指導者を名乗らず、あからさまにMIDI検定受験対策を謳わなければ特に必要とされないとも解釈でき、その辺は国家資格と違って曖昧である。

さて、この認定指導者資格が費用対効果に見合っているのかどうか、であるが、これは受講者の立場によって異なると思われる。すなわち、既に音楽専門学校の講師であるか独立自営でレッスンを提供している人であれば付加価値として検討に値すると考えられるが、そうでない場合(趣味でDTMを嗜んでいる人など)は無意味であろう。MIDI検定は受験人口が非常に限られているため、指導者資格を得て新たに受験講座を開講したところで大きなビジネスに結びつく可能性は、哀しい哉なきに等しい。ちなみに私は後者のケースで音楽講師稼業ではないから本資格はまったく眼中にはない。

個人的にはこの認定指導者資格はまったく屋上屋を架すようなものに見えて、たとえばMIDI検定1級合格者にそのまま指導者資格を与えればよいではないか、と思ってしまう。協会の財政支援等いろいろと大人の事情はあるのだろうが、こと認定指導者資格に関しては資格商法と揶揄されても仕方ない側面があることは否めず。

通信カラオケのデータ制作現場とMIDI

DTMステーション」で通信カラオケのデータ制作大手であるシーミュージック社の取材記事が掲載されており、とても興味深い内容である。

www.dtmstation.com

通信カラオケではリクエストごとにカラオケ配信会社からMIDIデータをダウンロードして現場のGMハード音源を鳴らす、という基本的な仕組みは知っていたが、近年は高品質なソフト音源の使用やオーディオ配信も徐々に増加しているとのこと。

オーディオに比べればMIDIデータ(SMF)は格段に容量が小さいので、回線が低速であった時代には重宝したと思うが、ブロードバンドの現在において圧縮されたオーディオ・ファイルの送信はほぼ一瞬であるから、音質面を考慮するとMIDIデータ打ち込みによるカラオケ再現がいつまで続くかはやや疑問も感じる。

というのも、「よく歌われる曲やクオリティを求められる楽曲は、オーディオ版も作って差し替えていく必要がある」ということであれば、レコード会社またはプロダクションからボーカル抜きの演奏オーディオ・ファイル(ステム・ファイル)を提供してもらった方が効率良いのではないかと思われるがどうだろう*1。仮にボーカル抜きのバックトラックを貰えなくても、ボーカルだけ除去する専用ソフトを使うなどして割と簡便にオーディオ編集できる時代である。こういった状況を踏まえると、データ制作現場には悪いが素人ながら何かとても無駄なことをやっている印象がなくはない。

ところで、データ制作現場では Digital Performer が大活躍で、打ち込み職人の方々から高評価を得ているようである。イベントリストを使って自由自在に数値編集もできるらしいから、今後MIDI検定の実技試験受験を考えている人は打ち込み用DAWの候補として検討に値するのではないかと思う。

*1:もちろん原盤権の問題があるので権利関係はそれ相応に対処する必要があるが、有線放送やラジオ放送その他ストリーミングとそう変わらないはずである。

Python 3 エンジニア認定データ分析試験が来夏開始

ちょっと音楽関連から脱線してしまうが、以前から気になっていたPythonエンジニア認定試験・データ解析編のカリキュラムと実施スケジュールがようやく決定、つい2週間ほど前に公表されたようである。昨年の基礎編スタート時とは違ってメディアではあまり報じられていない様子なので一応取り上げておこうかと思う。

www.pythonic-exam.com

年明けからベータ版試験を何回か繰り返した後、正式版試験の開始時期は来年夏頃とのこと。基本教材は先頃出版されたばかりの下記教科書が指定され、「第5章 応用:データ収集と加工」以外のすべてが出題範囲となる。

www.shoeisha.co.jp

上述書の目次で明らかなように、対象パッケージとしては、

  • NumPy
  • pandas
  • Matplotlib
  • scikit-learn

の4つで、特にscikit-learnの出題比率が大きい。やはり昨今のAI/機械学習ブームを考慮すると最低限これは省くことができないパッケージだと思うが、ニューラルネット(深層学習)は対象外ということになる。データの前処理、SVMや決定木、アンサンブル学習などの割と古典的な機械学習、モデルの予測精度評価などの基礎的なパフォーマンス分析が中心となると思われる。

昨年ちくりと批判したように、基礎編はほとんど受験価値がないという感想を抱かざるを得なかったが、今回公表されたデータ解析編は試してみる価値はありそうだ。

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デジタル信号処理の基本学習

DAWを使ったオーディオ編集やシンセによる音作りをやっていると、習熟レベルを一段上げるためにはどうしてもデジタル信号処理の基本を理解する必要に迫られると思う。

基本中の基本事項に関しては、MIDI検定の公式ガイドブックでも第4章から第5章あたりにかけて一通り解説はされているがいささか表層的で、試験のための丸暗記で済ますと消化不良のまま正しい知識を身につける機会を失う。

そこで別途追加的に自学自習を進める方が望ましいのだが、YouTube上にチュートリアル動画が山のようにアップされているので、これを利用しない手はないと思う。いきなり数式てんこ盛りの専門書ではハードルが高過ぎるだろうから、自分に合ったレベルの具体例豊富な解説動画をいくつかピックアップするところから始めると入門しやすいのではなかろうか。例として以下の動画チュートリアルを挙げておきたい。

www.youtube.com

手を動かし、音を聴いて覚えるという意味では、プログラミング実習を伴う講座が望ましい。上記チュートリアルでも Octave を使った簡単なプログラミングによってサイン波の音色を自分で確認できる。上例では、サイン波を1秒だけ生成してWAVファイルに書き出す。fsはサンプリングレートで、freqは音の高さを表す周波数となっている。freqを変えて出力してみるとピッチが変わることがわかる。

正式なMOOCの講座では下記Courseraのコースが良いかもしれない。これもPythonによるプログラミングで実際に手を動かして学習できるようである。私はまだenrollしていないが、追って受講レポートなどを書いてみたいと思う。

ja.coursera.org

 

10月の楽器フェアで種々のAMEI主催セミナー

今年の「楽器フェア2018」は、以下の通りに10月19日から21日の3日間、東京ビッグサイトにて開催されるが、AMEI主催セミナーも充実した題目が揃っており、MIDI検定受験者やDAW/DTMに興味ある人はこぞって参加されるといいと思う。と書きつつ首都圏在住ではない私自身は参加できそうにないのが残念である。

musicfair.jp

今年のセミナーで個人的に目を引いたものをいくつか取り上げる。まず一発目の「Future MIDI Expansionの可能性について」でMIDI規格の将来拡張仕様がレクチャーされるが、例えば楽器同士の音色パラメータの相互連携が正式にサポートされるようである。今までSysExメッセージを使って各メーカー毎独自仕様(というかハック?)でデータのエクスポート/インポートをやってたところがMIDI統一規格として拡張されるようだ。この種の拡張仕様が正式版としてリリースされるのはもう少し先のことになるだろうが、将来的にMIDI検定3級・2級試験に反映される可能性が高いと予想される。

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定番のMIDI打ち込み講座は「基本中の基本から始めるMIDI打ち込み講座」としてMIDI検定4級の入門レベルで開講される。過去に一時期やっていたようなMIDI検定1級レベルの上級者向けセミナーは最近ではやらなくなっている。

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MIDI以外では「AIエンターテインメントの未来」というレクチャーは正に旬の話題であろう。音楽もAIと無縁ではない現況を反映しているようでとても興味深い講座だと思う。

AIと言えばプログラミングとの関連では、Scratchを活用した講座が2つ提供されるようである(「楽器を使ってプログラミングを学ぼう!」および「Scratch×ボカロ!STEM教育におけるMIDIの活用」)。ただし、当然ながらこれらは子供向け、または教育関係者や親御さん向けのチュートリアルということにはなるが。

scratch.mit.edu

追記 (2018-10-01)

上記のMIDI拡張仕様に関するセミナーについては、「DTMステーション」でも紹介されていた。なかなか興味深いデモンストレーションが披露されるようだ。

www.dtmstation.com