DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

Studio One に月次レンタル・プラン登場

小ネタだが、面白い動きだと思ったので紹介がてらのメモ。

最近のソフトウエアの販売モデルとして、使いたい期間だけを必要に応じて支払うといういわゆるサブスクリプション型が結構増えてきているように感じられるが、Studio One もその仲間入りを果たしたようで、Professional版に対して Rent-to-Own というプランが用意された。

daws.splice.com

これは、14日の無償試用期間を過ぎると月々$16.99(現状のレートだと約2,000円)を支払い、途中でいつでもキャンセルできるというプランである。

当然だがクラウド型ではないので、手持ちのローカルPC/Macにインストールすることになるが、月次払いを継続した後に仮に満額支払い*1が済めば完全に所有権を得て通常の一括購入と同様の状態になる。この場合は見方を変えれば、約2年間の長期月賦契約と見なせなくもない。ただし、手数料なしでいつでも途中解約できる。

DAWでこのようなサブスクリプション型がどれほどニーズがあるのか正直よくわからないが、共同制作プロジェクトなどで短期的に Studio One を使う必要に迫られた場合とか、あるいは教育機関がレッスン期間中だけ学生用に用意する場合などがユースケースとして考えられるかもしれない。

一方それ以外の個人ユースだとほとんどメリットはないだろうと思う。それよりもブラック・フライデー (Black Friday) の半額セール期間で一括購入してしまう方がお買い得であろう。ちなみに今年のブラック・フライデーは来週23日の金曜日ということになっている。

*1:明記されていないがおそらく定価の¥44,259相当だと想定される。

Waverazor LE が無償公開

日本での知名度はあまり高くはないのだが、Tracktion社から提携販売しているプラグインの変わり種シンセ Waverazor が11月に入って無償のLE版を出したので、備忘録を兼ねて紹介しておきたい。私も早速ダウンロードして Tracktion 7 に入れてみた。

www.dtmstation.com

www.minet.jp

使い方チュートリアルYouTube動画で種々公開されているので、興味がある人は参照されるといいと思う。簡単に言ってしまえば、オシレータ3波をそれぞれ自由自在に波形編集し*1、それらを重ね合わせて最終的な音色を合成するようになっている。UIは一見bizarreだが、シンプルな操作体系で直感的に音色編集できると思う。

www.youtube.com

LE版は使用有効期限はないものの、Factory Bank に入っているプリセット32音色しか編集できず、また編集後の音色をバンク保存する機能は省かれている*2。しかし、基本的な音色編集機能は正式版と同じようなので、十分楽しめるはずである。

見た目もさることながら、オーソドックスなアナログシンセでは実現が難しいかもしれない奇妙奇天烈なサウンドを作ったりできて非常に新鮮である。私はついこないだまでMIDI検定1級試験の対応で生楽器シミュレートの退屈な音色編集にかかずらってばかりの日々だったため、ここまでぶっ飛んでいるとむしろ久々に開放感を味わえる。

 

*1:波形周期を4つのセグメントに区切り、各セグメント毎に異なる波形を割り当ててつなぎ合わせる。プリセットの波形テンプレートが豊富に用意されており、ノイズを指定することも可能。

*2:DAWのトラックにインストゥルメントとして使用中の音色設定は保存再現されるので、パッチ保存機能がなくてもさほど支障にはならないかもしれない。

MIDI検定1級の得点と評価シート

このところMIDI検定ネタが続いてしまったが、かなりニッチなテーマゆえ*1、1級到達により本記事でそろそろ一区切りということにしようかと思う。

daw-jones.hatenablog.com

また、MIDI検定の受験アプローチについては下記記事でほぼ書き尽くしたと考えられるので、それを参考にしてもらえればいいかと思う。本記事は2級2次実技までを射程に入れた概説だが、1級はほとんどその延長線上で対応できると想定して差し支えない。1級で追加対策すべき課題としては、上級レベルの読譜と生楽器音源の充実となるが、いずれも過年度課題曲実習を何回か重ねれば対応は可能である。

daw-jones.hatenablog.com

さて本題。つい先日に協会よりMIDI検定1級試験の得点および寸評等評価シートが送付されてきたので、この概要につき紹介を兼ねていくつか注記や感想などを書いておきたい。

最終判定

ざっくり言えば、1次審査と2次審査の合計得点が100点満点中85点以上で合格、というかなり厳しい合否判定である。より正確には1次審査の足切りがあるが、詳細については下記受験案内または公式ガイドブックを参照されたい。

MIDI検定試験1級案内

それで今回の私の得点だが、総合87点(1次87点+2次0点)ということでギリギリのセーフという冷や汗ものの結果であった。2次審査の総合評価は結局B評価*2で、つまり加点なしという嬉しくもない評価に終わる。

痛感するのは、1級はやはり1次審査次第だということである。なので、希望的観測は完全に捨てて2次審査は加点なしの前提で、なおかつ1次審査で満点を目指す、特にノートミスを絶対にやらないという覚悟と方針で臨めば合格の確率は上がる。今回私もノートミスは一切冒さなかったのでなんとか及第点に達することができた。

1次審査

評価シートのフォーマット自体は下記2級2次のものとほぼ同様であるが、第1採点および第2採点両者の寸評コメントが付記され、採点者名と採点時使用DAWも明らかにされる。私の場合はお二方ともに Cubase 9 であった。

daw-jones.hatenablog.com

今回の私の3点減点の原因は、39小節目に間違ったテンポ・データが入っていたことによるレギュレーション違反であった。

しかし不思議なことに、私が制作に使用した Studio One と Domino で再チェックしてもそのようなイレギュラーなテンポ入力はまったく確認できなかったので、Cubaseでないと見えないようなデータが混入したとしか考えられなかった。怪しいのは Studio One だが、もうこればっかりはどうしようもない。

また、最初に不要なメタイベントが入っているとの指摘があったのだが、これは使用ソフト特有の事情ということで見逃してもらっている。Studio One はメーカー特有のメタイベント・データを書き出していることは以前から承知していたので驚きはしなかったが、これはむしろ2級2次で問題となる可能性がある。

2級でもそうだったが、MIDI検定では再生上特に問題ないメタデータやセットアップ・データであっても、不要なものはすべて削除しておかないとレギュレーション違反で減点を食らう(可能性がある)理不尽な規定があるので、今後受験される方は要注意である。

あとMIDI検定受験で使用するDAWとして Studio One は使わない方がいいかもしれないというアドバイスも一応しておきたい。不要データ出力もさることながら、そもそも Studio One はMIDIイベントリスト機能がないので*3、Domino等との併用を迫られるが、このような制作環境は少なくとも初心者向きではない。予算に余裕があるのであれば Cubase を選択することが一番無難であろうと思う。

2次審査

これはあくまで主観評価なので、評者によって互いに矛盾するコメントをもらったりする可能性がある(実際にそうだった)。したがって、絶対評価ではなく「人によってはそういう捉え方もあるかも」程度に受け止めておけばよいと思った。

参考までに、辛めのコメントを中心としていくつか抜粋・紹介しておく。ついでながら私の言い訳もとい愚痴も付記する。

  • 弦楽器系のレガートさが足りずにぎこちない: これは主として音源の制約に起因する。Studio One 付属音源の Presence XT サンプリング音色の限界だと思われる。もたつくアタックの遅延は該当トラックの発音タイミングを数msズラすなどの対策を講じてもよかったかもしれないが時間的余裕なし。
  • 全体に平坦でトレモロのスピード変化などが欲しい: トレモロは非常に難しく、MIDI打ち込みだけでは機械的に聞こえるということは十分認識していたがこれも時間切れということ。スピート変化などは途中で細かくタイミング等を調整せねばならないが本番でそんな余裕はなし。本来は音源対応(アーティキュレーション機能)に委ねられる部分であろう。しかし別の評者は「抑揚表現含めてミキシングも上手にまとまっている」とのコメントあり。
  • 二胡ならではの表現がなく、下手に何かするよりも無難に逃げた感あり: ここは確信犯的な結果ですね。1次審査の比重を考慮すると無難にならざるを得ないところがある。冒険してノートミスとかレギュレーション違反で減点されたらたまったものではないから。
  • 打楽器はもう少しオリエンタルな感じが欲しい: これも音源の制約で致し方ない。GarageBand付属の Chinese Kit は個人的には悪くなかったのだが。
  • 銅鑼は重たく的確な選択ではない: 普通にシンバルにしておけばよかったのだろうか。一方で別の評者は「銅鑼は効果的」との指摘があり、この辺はスコアに明確な指示を記載すべきではないかと思う。

生楽器シミュレートとか結局サンプリング音源次第じゃないのか、という身も蓋もない結論が透けて見えると思うが、1次審査突破優先を考えると、安い音源でもいいからとりあえず破綻のない仕上げにしておけば総合点で合格できると思われる。2次審査は総合でA評価もらえれば御の字であろう。

*1:本ブログのアクセス・ログを見ても、MIDI検定関連の検索による訪問者数は非常に少ない(というかほとんど皆無)。

*2:内訳は、A評価が2人、B評価が3人。

*3:ただし自主制作でMIDIイベントリストなど通常はまったく使わないと思うからMIDI検定以外での使用上は全然問題ないのである。

MIDI検定試験の意義について

DTM全般に関してはズブの素人で、DAWを触ったことすらなかった私も約2年がかりでMIDI検定3級から2級、そしてついに1級まで到達を果たすことができたのだが、これまでの学習歴やスキルアップの来し方を振り返ってみて、私自身が考えるMIDI検定試験の意義を改めて述べてみたい。今後受験を検討される方の賛同を得られるか否かは不明だが、少しでも動機付けに寄与するか、またはつまらない誤解を解消する効果があれば幸いである。

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なぜMIDIなのか

モダンなDAWの登場によってMIDI打ち込みはもはや時代遅れである、というような意見をネット上で時折目にするのだが、これは正しい理解に基づいていない。

確かにオーディオ録音編集だけで楽曲制作する場合はMIDIは不要である。しかし、そうでない多くの場合においては、MIDIを用いて演奏データをコントロールし、音源を鳴らす仕組みがDAWの標準仕様になっている。したがって、DAWを上級レベルで使いこなすことを目指すならば、依然としてMIDIと無縁でいることはできない。

たとえば、どのDAWにも搭載されているピアノロール編集がMIDIと密接不可分であることを考えると、MIDIの基本仕様を知っておくことは少なくとも損ではないはずである。

MIDI検定試験はDTMを学ぶMOOCみたいなもの

オーディオ編集の比重が大きくなったためにDTM楽曲制作はかつてほどMIDI打ち込みありきではなくなっているとはいえ、ソフトシンセ等音源の発音・表現制御においてはMIDIの知識を必要とする。その意味では、MIDI検定試験はいわば「MIDIから入るDAWおよび楽曲制作入門」であり、技術的な基本を過度に省略することなく初心者がDTMを学ぶための格好の学習コースであると思う。

もちろん実際はオンライン・コースではないのだが、所定の教材に従って自学自習で節目となるいくつかの試験をパスしながら一定レベルの学習過程を修了する、という点では昨今流行りのMOOCにとてもよく似ている。2級実技試験と1級試験はいわば capstone project と言ってもよい。この種のコースウエアの利点は、独りよがりなつまみ食いをせずに自然と(半強制的に)システマティックかつ効率的な学習を経験できる点であり、それはそのままMIDI検定試験の学習過程にも当てはまる。

結果よりもプロセスがはるかに重要

実質的にはMOOCのような学習コースであること、また資格自体には市場価値が(残念ながら)ほぼない、ということを考え合わせると、自学自習の学習過程に大きな価値があるのであって、資格それ自体は目標達成の結果におまけとして付いてくるバッジ程度に考えておけばよい(この点も一般的なMOOCの修了証に類似する)。裏を返せば、MIDI検定資格そのものに意味がない等の外野席批判はirrelevantであって、自己満足で全然構わない。

学習コースという観点では、3級から2級2次実技試験到達までが中核で(特に2級が非常に重要)、1級はあくまで余禄という印象を受ける。公式ガイドブックに基づくコース内容としては、2級まで到達すれば、MIDIと組み合わせたDAWを使う基本的な楽曲制作のスキルは概ね体得できる体系になっているからである。なので、必ずしも全員が1級を目指すべきとは思わず、たとえばMIDI打ち込みスキルの習得だけであれば2級までで十分である。

 

2018年MIDI検定1級試験の合格者発表

本日25日、去る8月に受験した第10回MIDI検定1級試験の合格者受験番号が協会サイト上に掲示され、私も無事に合格したことを確認した。

MIDI検定1級受験番号発表

協会サイトの総評コメントや私が以前書いたレビュー記事の通り、本年の課題曲は音数がかなり少なかったので、難所である1次審査通過はほぼ間違いないとの確信はあったが、なにはともあれ一発でパスできて安堵の心境である(打ち込みの苦行はもう二度と味わいたくないですから)。

daw-jones.hatenablog.com

今年は合格者が26名に上り、これは2010年第1回時の43名に次ぐ多さである。受験者数は不明であるがおそらく40名程度と推定され、仮にそうだとすると合格率は65%前後となり過去最高を更新する可能性が高いと思われる。それだけ今回の楽曲は例年に比べれば与し易かったと言え、私を含めて今年の受験者は(たまたまではあるが)幸運に恵まれた。

この辺で反省と総括をしたいところだが、細かいテクニカルな話は上述のレビュー記事ですでに書き尽くしたので繰り返しは避ける。なお、11月上旬に2次審査の評価シートが送付される*1ようなので、そのタイミングでミックス等音作り面におけるレビュー記事は改めて書いておこうと思う。

その他、MIDI検定試験受験の意義や、3級から1級に到達するまでの受験対策的なポイントを再度簡潔にまとめて書こうかとも思う。これらは今後受験を検討される方の参考になれば幸いである。

*1:これは1級試験の一番のお楽しみ。プロからどういった厳しい意見を頂くのか怖くもあり。

MIDI検定認定指導者資格について

当ブログのアクセス解析を見ていたらMIDI検定2級指導者資格に関するクエリーがたまたま混ざっていたので、認定指導者資格について一言触れておきたい。

AMEI認定のMIDI検定指導者資格は、MIDI検定2級以上の合格者に門戸が開かれており、4級指導者から入って3級指導者、そして2級指導者へと到達するコースになってる。いずれもAMEI主催認定講座の受講と試験合格が義務付けられている。

2018MIDI検定指導者認定講座開講のご案内

なお、本年度の指導者講座は、2級指導者講座が9月中下旬に実施・終了しており、4級・3級含めて新たな受講は来年度以降ということになる。

AMEI認定指導者を名乗り、公式ガイドブックを使ってMIDI検定受験講座を開くためには必要とされるようなので、一応は業務独占資格の衣を纏っている。しかし、認定指導者を名乗らず、あからさまにMIDI検定受験対策を謳わなければ特に必要とされないとも解釈でき、その辺は国家資格と違って曖昧である。

さて、この認定指導者資格が費用対効果に見合っているのかどうか、であるが、これは受講者の立場によって異なると思われる。すなわち、既に音楽専門学校の講師であるか独立自営でレッスンを提供している人であれば付加価値として検討に値すると考えられるが、そうでない場合(趣味でDTMを嗜んでいる人など)は無意味であろう。MIDI検定は受験人口が非常に限られているため、指導者資格を得て新たに受験講座を開講したところで大きなビジネスに結びつく可能性は、哀しい哉なきに等しい。ちなみに私は後者のケースで音楽講師稼業ではないから本資格はまったく眼中にはない。

個人的にはこの認定指導者資格はまったく屋上屋を架すようなものに見えて、たとえばMIDI検定1級合格者にそのまま指導者資格を与えればよいではないか、と思ってしまう。協会の財政支援等いろいろと大人の事情はあるのだろうが、こと認定指導者資格に関しては資格商法と揶揄されても仕方ない側面があることは否めず。

通信カラオケのデータ制作現場とMIDI

DTMステーション」で通信カラオケのデータ制作大手であるシーミュージック社の取材記事が掲載されており、とても興味深い内容である。

www.dtmstation.com

通信カラオケではリクエストごとにカラオケ配信会社からMIDIデータをダウンロードして現場のGMハード音源を鳴らす、という基本的な仕組みは知っていたが、近年は高品質なソフト音源の使用やオーディオ配信も徐々に増加しているとのこと。

オーディオに比べればMIDIデータ(SMF)は格段に容量が小さいので、回線が低速であった時代には重宝したと思うが、ブロードバンドの現在において圧縮されたオーディオ・ファイルの送信はほぼ一瞬であるから、音質面を考慮するとMIDIデータ打ち込みによるカラオケ再現がいつまで続くかはやや疑問も感じる。

というのも、「よく歌われる曲やクオリティを求められる楽曲は、オーディオ版も作って差し替えていく必要がある」ということであれば、レコード会社またはプロダクションからボーカル抜きの演奏オーディオ・ファイル(ステム・ファイル)を提供してもらった方が効率良いのではないかと思われるがどうだろう*1。仮にボーカル抜きのバックトラックを貰えなくても、ボーカルだけ除去する専用ソフトを使うなどして割と簡便にオーディオ編集できる時代である。こういった状況を踏まえると、データ制作現場には悪いが素人ながら何かとても無駄なことをやっている印象がなくはない。

ところで、データ制作現場では Digital Performer が大活躍で、打ち込み職人の方々から高評価を得ているようである。イベントリストを使って自由自在に数値編集もできるらしいから、今後MIDI検定の実技試験受験を考えている人は打ち込み用DAWの候補として検討に値するのではないかと思う。

*1:もちろん原盤権の問題があるので権利関係はそれ相応に対処する必要があるが、有線放送やラジオ放送その他ストリーミングとそう変わらないはずである。