DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

興味深かったMPC特集

ライムスター宇多丸師匠のTBSラジオ帯番組である「アフター6ジャンクション」で、先頃7月30日の放送回が非常に興味深く、私のようなDTM愛好家にとっては新たな知見の宝庫であった。

www.tbsradio.jp

AKAI MPC (MIDI Production Center / Music Production Controller)*1がヒップホップ業界に与えた影響やモデルごとの微妙な音質等の違いを特集したマニアックな回であったが、このようなロングセラーのハード機材によってMIDIがヒップホップに貢献している歴史的経緯に少々驚きを禁じ得なかった。ストリーミングで聴けるので是非。

AKAI Professional Keys & Pads

AKAI MPC SPECIAL – Let's make track together.

AKAI professional - Wikipedia

Akai MPC - Wikipedia

80年代に音楽業界を席巻した LinnDrum が製品デザインの礎になったという歴史も感慨深い。同社倒産後に Roger Linn 氏が AKAI に拾われてMPC製作の任に当たったとのこと。UIデザインの影には盲目である Stevie Wonder の影響もあったという。こういった紆余曲折の変遷は楽器業界の常で、Moog とか Sequential Circuits 社などの例に見られるに、イノベーターとなった創業会社は倒産か身売りで表舞台から去ったケースが少なくない。この点は日本の大手楽器メーカーによる攻勢の影響が大だが、なお皮肉なことにはAKAI社自体も経営危機に伴う身売りを何度か繰り返している。

本番組ではMPCサウンドのオーディオ解析により、特に根強い人気を誇る MPC3000 の魅力を探っている。

www.vintagesynth.com

ここで明らかにされるのは、MPC3000 の発音タイミングが前のめりではなくむしろ微妙に遅れて発する鳴りの特徴である。これが多くの音楽家が求めてやまない、正確さより 「(ズレではなく)ユレ、ゆらぎ」とマッチしている、ということらしい。ここはDAWでのMIDI打ち込みリズム制作においても、適度なヒューマナイズ加工編集が潜在的なノリの効果を生み出す可能性を示唆しているように思う。

音質面では、ビット深度が大きい後継モデルである MPC4000 との比較により、 MPC3000 の方が太い感じのサウンドを出す点がヒップホップ業界で好まれているという側面に焦点が当てられた。ややくすんだ、温かみがあるという表現もなされているが、これはDAW上のエフェクターだとサチュレーターを掛けるような効果が入っている、ということであろうか。

私が聴いた感じでも MPC4000 の方が高音の伸びが良い印象はあったのだが、プロの現場では高域の伸びが良いことが必ずしも優れた楽曲の条件ではない、という核心を突いていたように思う。言い換えれば、やはり低域重視が現代的な楽曲の条件であるようにも感じた次第である。

*1:簡潔に言えば、サンプラーとドラムマシンおよびMIDIシーケンサーを合体させたパフォーマンス機材。