DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

譜面解釈とMIDI表現 (6) グリッサンド

グリッサンド (glissando) も管楽器を中心としてMIDI検定1級課題曲ではよく目にする表現だと思う。2016年課題曲ではバスクラリネットに1箇所だけ出現する(下例参照)。

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クラリネットグリッサンドは実際には以下の動画のような演奏となる:

www.youtube.com

 

これの再現法は楽器によって異なるが、大別して2種類考えられる。すなわち、32分音符などの半音階等でノートを打ち込む方法と、ピッチベンドで対処する方法の2つである*1。上記実演でもわかる通り、クラリネットの場合はピッチベンドで滑らかに変化させる方がリアルに表現できると思われる。

上の譜例では、5半音分のインターバルを下降している。したがって、同楽器パートの音色ではベンドレンジを "5" に設定し*2グリッサンドの適用箇所において 0 から -1 に漸減させる。その後、次のノートが発音される前に再び 0 に戻すことを忘れないようにする。なお、-1 に振り切るタイミングは、記譜通りに概ね2拍目の頭に来るよう調整すればよい(下図参照)。

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*1:3つ目としてポルタメント (CC#65) を使う手もある。しかし Studio One の内臓音源 Presence XT では未対応のため残念ながら使えず(Prime版の制約か?)。

*2:異なるインターバルのグリッサンドが複数箇所出現する楽曲の場合はノート打ち込み型の方が楽かもしれない。

譜面解釈とMIDI表現 (5) ホルンのゲシュトップフト奏法

2016年のMIDI検定1級課題曲において、もっとも特異な音色指定は、ホルンのゲシュトップフト奏法である。

作曲者からのメッセージに簡単な解説が書かれていたが、私を含めて管楽器に馴染みのない人にとってはこれだけでは皆目見当がつかないので、YouTubeに多数上がっているチュートリアル動画などを積極的に探して耳で確認する必要がある。

スコア上の表記

ゲシュトップフトの指定は、下例のように音符の下に小さく"+"記号が付く。

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ゲシュトップフト奏法の基本と音色

英語では stopping / stopped horn と言うのが一般的なようである。奏法は、管に握りこぶしを入れるため*1、ミュート用の器具を装填するミュート奏法とは厳密には異なる。しかし、サウンドとしては多くの場合両者ほとんど区別がつかない印象も受ける(専門家には怒られそうだが)。

ゲシュトップフト - Wikipedia

奏法と音色効果については、数ある中でも下記の教則動画が一番わかりやすいと思う。聴いてみると明らかなように、音色はミュートしたトランペットの音にとてもよく似ており、高音域の金属的な倍音を伴うようになる。

www.youtube.com

ゲシュトップフトとミュートの比較相違と使い分けについては以下のインタビュー動画が非常にわかりやすかった。ゲシュトップフトは管に入れた手で細かく共鳴を調整できるので、厳密に音程をコントロールしなければならない旋律を弾くような場合はミュートよりも有利であること、音色としてはミュートの方が高音の伸びが良く (cut through) 若干くっきりとしていること、などがポイントであろうか。

www.youtube.com

どうシミュレートするか

上記より明らかなように、ゲシュトップフトはMIDI表現ではなくて音源音色の問題であり、要はそのものズバリな音色があればそれを使えば済む話である。しかしそうでない場合は、類似音色で差し替えるか重ねるほかないだろう。ほとんどの場合、ミュートのホルン音色があればそれで代用し、細かなニュアンスはエフェクトで加工対応ということでも特に問題ないと思う。

私の現在の環境ではミュート・ホルンの音色が見当たらなかったので、下記 Orion Sound Module 無償版に入っている音色 "Brass - French Horn" を Tracktion 5 で再生してWAVに書き出したものを再度 Studio One (Prime) に取り込んでミックスした。この音色は高音のエッジが立っていて、柔らかいストレートのホルンよりはミュート・ホルンに若干近い。しかしこれだけでは物足りないため、苦肉の策として Muted Trumpet の音色を微かに混ぜることでなんとかゲシュトップフトの風味を出した*2

icon.jp

*1:ただし、低域での手動調整は難しいので、通常は専用器具を用いるようである。

*2:シンセのブラス音色を加工して重ねる等のテクニックも考えられるが音色調整にさらに時間を要すると思う。

譜面解釈とMIDI表現 (4) トリル

MIDI検定1級課題曲では、トレモロ (tremolo) と並んでトリル (trill) も頻出表現の一つである。2016年課題曲では、ピッコロ等管楽器パートに1箇所出現する(下例参照)。

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通常は、親音符からスタートして2度上の音*1と素早く交互に弾き、最後のみ3連符にして親音符に戻ることで終止する。スピードは楽曲によりけりだが、通常は16分音符か32分音符とすることが多いようだ*2

上記譜例では、トリル記号の上に小さくシャープの臨時記号が追記されている。ピッコロだけ親音符がB3で2度上の音はC4となるが、さらにもう半音上げてC#4と指定する例である。したがって、上例の場合は親音符B3とC#4の組み合わせで奏でることになる。以上より、MIDI打ち込みの例は下図のようになる(32分音符で演奏した場合)*3。 

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MIDIで再現する際、機械的な印象をできるだけ避けるために、ヒューマナイズを適用して発音タイミングを微妙にズラすのも一法である(出だし最初のノートは除く)。ただし、刻んでいる各ノートが重ならないように注意する。

*1:ピアノの鍵盤で言うと、隣り合う白鍵同士の関係。

*2:詳しくは、楽典.comの記事を参照。

*3:1級1次審査では、最初の親音符のピッチとタイミングだけチェックされると思うので、後は自由に表現できる。スピードを途中で変えるような演奏も考えられ、16分音符で始まって途中から32分音符にするなどの工夫も可能。

苦境のSoundCloud

SoundCloudの経営が危機的状況にあることは以下の過去記事で少し触れた通り、すでに周知の事実である。

daw-jones.hatenablog.com

 

これに加えて、つい先日大規模なリストラ策が公表された。

www.itmedia.co.jp

元ネタはBloombergの配信ニュースである。

www.bloomberg.com

 

Bloomberg記事の末尾パラグラフ(以下引用)で締め括られている通り、SoundCloudに限らず音楽コミュニティのフリーミアム・モデルはどの業者も総じて収益化に辿り着いていない惨状が露わになっている。呼び水としてのマーケティング・ツールにこそなれ単独での事業化は相当厳しい印象を拭えない。

Pandora Media Inc. has never had an annual profit, and just sold a minority stake to online radio company SiriusXM. Spotify’s losses have grown despite rapid consumer adoption. Meanwhile, companies such as Apple and Amazon.com Inc. use music to draw users for their broader businesses.

こうした収益化に苦しんでいる状況は、Tumblrの先行き不透明感とかなり重なるものがあり、以下の New York Magazine 記事はいろいろと考えさせられた。あくまで結果論だが、SoundCloudにしてももっと早い段階で有料モデルを主軸として導入した方がよかった可能性はある(スパム対策も含めて)。

nymag.com

追記 (7/14):

上記大規模リストラ策公表後のフォローアップ記事が TechCrunch に上がっていた。社員の生々しいコメントが取材されている。

想像以上に厳しい状況のようで驚愕した。キャッシュは50日持つか持たないかのレベルにも関わらず、大手他社による買収策は除外して独立を保つことに固執しているようで、社員の士気も地に落ちている。

破綻後にタダ同然で大手に吸収される可能性もあるが、リニューアル等の目的で一時的にせよサイトが閉鎖されるケースもありうるのではないか。バックアップ取ってないユーザは早めに確保した方がいいかも。

jp.techcrunch.com

techcrunch.com

%表記から値(バリュー)表記への変更 (Studio One)

Studio One の知っているようで知らないかもしれない小技について2回目。

Studio One でのベロシティやコントロール・チェンジなどの編集において、レベルの表記はデフォルトではパーセント単位(0%〜100%)になっており、MIDI検定等への対応で苦慮する場合がある*1

実はこの表記は切り替え可能で、ベロシティなどのゲージ領域で右クリックし、"Percent" か "MIDI" のいずれかを選択できる。デフォルトのパーセント表記ではなく値表記(0〜127)にしたい場合は、後者の "MIDI" を選ぶ(下図参照)*2

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蛇足ながらベロシティについては、選択範囲のノートに対して一括変更を適用することも可能である。ノート選択後に右クリックでコンテキスト・メニューから Velocity を選ぶと、下図のような一括編集パネルが開く。たとえば、現状の半分の値にしたい場合は、Compress 項目において "1:2" と入れる。

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自主制作上はパーセント表記でもまったく問題なく、またMIDI検定1級では受験者が自由に表現可能なのでこれもパーセント表記でなんら支障はない。

しかし、強弱記号は種類がそこそこ多い上に、個別のノートにアクセント記号も付くため、拠り所としてなんらかの基準に従っておいた方があれこれ迷う必要がなく作業を円滑に進められる。なので、一応は協会推奨のルール*3に準拠しておいた方が楽であり、そのためには値表記の方が好都合である。

*1:MIDI検定1級は受験者の自由に委ねられているので大きな問題にはならないが、指定値入力が必須である2級実技の場合はこのままではちょっと困ると思う。もっとも、2級実技でのベロシティやコントロール・チェンジ等に関してはDominoで一括編集するという手もある(私はこのやり方を採用)。

*2:ただし、ピッチベンドについては常時 -1.0〜0〜1.0 表示である。

*3:mfを80とし、上下16ずつ加減する。たとえば、f は 96 (=80+16) とする。

譜面入力にMuseScoreを使う

MIDI検定1級課題曲のスコアは、残念ながら紙の印刷物のみでPDFファイルでは提供されないため*1、本ブログで譜例を作成する際には別途スコア入力ソフトを使って再現している。ここで私が愛用しているのは、オープンソースでフリーの MuseScore である。

musescore.org

2015年にバージョン2に上がってから大きく機能強化が図られ、洗練されたUIで使いやすくなった。本年5月にさらに2.1へ上がり、譜面作成用途では定番の有償ソフトである FinaleSibelius と比べても、もはや遜色ないレベルではないか。よほど特殊なニーズでもない限りはプロの使用にも耐えうると思う。現在、次期バージョン3の開発が鋭意進行中で、将来的には Finale などよりも MuseScore が主流になる可能性も秘めている。

もっとも、最近の主たるDAWでは上位バージョンでスコア編集機能を備えているものが多いので*2、わざわざ別個のスコア入力ソフトを導入するインセンティブは小さいかもしれないが。

*1:2級2次試験実技の本番課題曲は試験当日の紙配布のみで、2次筆記含めて過去問は一切公開されていない。その代わりに本番直前の練習曲のみPDFで無償ダウンロード可(過去3年分)。

*2:Studio One は、Artist版またはProfessional版のオプションで楽譜作成(+α)ソフトの Notion をバンドルすることもできる。Cubase や Logic Pro X なども譜面作成機能がある。

譜面解釈とMIDI表現 (3) トレモロ

2016年のMIDI検定1級課題曲では、バイオリン・パートでトレモロ (tremolo) が2箇所出現する。譜面上は、下図のように、基音に対して斜線を何本か追記することで音符の刻み方(速さ)が指定される。下例の場合、追記斜線2本含めて旗が合計3本ということになるので、32分音符で刻みながら半音ずつ下がっていくというフレーズ、という解釈になる*1

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したがって、ノートの打ち込み例としては、以下のような感じになる(縦グリッド線は32分音符単位)。

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基本は上例のようにMIDI表現のみで対応できると思うが、音源によりトレモロ用の音色が別途用意されている場合はそれを使う(または重ねる)方がよいこともある。通常音色で刻むと機械的で不自然に聞こえる場合は特にそうである。

Studio One の内蔵音源 Presence XT で備えている弦楽器系音色は結構クオリティが高く、たとえば "15 Violins Legato" で上述のようにトレモロを刻んでもそれほど不自然には聞こえない。なお、トレモロ用に "Tremolo Strings" も用意されているので、トレモロ箇所についてはこちらを鳴らしてもいい(あるいは通常レガート音色に重ねて発音させる)。

音源によっては、トレモロその他アーティキュレーション用のスイッチを音域外のキーに割り当ててオン・オフできるものも少なくない。この種の機能は積極的に併用すると効果が出ると思われる。

その他、トレモロ効果を出すプラグインエフェクターも数多く存在するが*2、すべての楽器音色でしっくり当てはまるかどうかは聴いてみないとわからない。下手な使い方をすると、かえって機械的で滑稽な印象を与える可能性もある。

*1:詳しくは、楽典.comの記事などを参照。

*2:どちらかというとパッド系シンセ音に適用するためのEDM用主体なので、生楽器音色にはふさわしくないかもしれない。