DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

ミックスダウンとマスタリングの注意点 (Tracktion)

前回記事と若干重なるところもあるが、最終工程であるミックスダウンとマスター編集・WAV書き出しに関し、やってみて得られた知見を改めて整理しておきたい。勘所は他DAWとも大方共通すると思う。

daw-jones.hatenablog.com

トラックの整理とバス共通化

ドラムキット全体、あるいは低域を担うキックとベース、といった似たような役割・音色のトラックは、ルーティングによって共通のバス・トラックへ出力し、まとめてエフェクト処理をやってしまう方が効率的・効果的である場合がある。特にEQとコンプによるまとめ上げではよく使われるテクニックであろう。また、CPUの処理負担を減らす狙いもある。

T5では、下図例の通り、トラック全体を選択時の下段プロパティ・パネルに "Track Destination" という属性項目があるので、ここをリルート先の出力用トラックに変えてしまえさえすれば、ルーティングは簡単に実現できる。下例では、Main Kick トラックを、バス・トラックとしてあらかじめ用意した Bus (Kick & Bass) トラックへルーティングする設定である。

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なお、T5におけるフォルダーはバス(ルーティング)とは似て非なるものなので要注意である。フォルダーは、複数の類似トラックをオーガナイズする目的の単なる整理箱であり、フォルダーに対してはエフェクト処理は適用できない(ボリュームとパンのみ適用可)。

理想的には、バス化は制作途上で徐々に整理整頓していく方がいいと思う。9分9厘出来上がった後で全体を見直してから再構成するのは大変な労力を費やす上に、当初思い描いていた音色・音質と全然違った結果になるリスクもあるからだ。

コンプの掛け具合などに技量を要するこの辺のスキルについてはドラム・リズム系が一番の肝だろうが、低域を中心としてもっとも音量バランスの調整が難しいパートでもある。

各トラックの音量

各トラックごとの音量は抑え気味が望ましい。当然ながら0dBギリギリは非常によろしくない。実際にソロで発音させ、トラックごとの音量がすべて0dBを超過しないよう(ピーク)レベル・メーターで確認を怠らないようにする*1

音量・音圧アップありきでパッツンパッツンに上げてしまうと、たとえ全体のマスター・ボリュームが正規化されていたとしても、結果として部分的な音割れもしくはクリッピング必至なので細心の注意が必要である。

意識して控えめな音量調整を心がけることの重要性については、我が意を得たりな以下の記事も参考になった。

getthatprosound.com

マスター・ボリューム

トラック毎音量と同様、マスター・ボリュームもついつい上げ過ぎになるおそれがあり、レンダリング・WAV書き出し後に後悔するというパターンに陥ることが多い。

マスターの音量は耳だけを頼りにするのではなく、T5付属の正規化自動解析機能で参考レベルを決定する方が手っ取り早いし間違いがない。

具体的には、マスター・フェーダーのプロパティ・パネルから "Find Normalised Level" をクリックし、プルダウン・メニュー一番上の "Based on the max level of the whole edit" を選択実行すれば、書き出し時に音割れしないボリュームを自動的に設定してくれる。慎重を期すのであれば、自動設定ボリュームよりさらに1dB程度下げてもよい。何度か書き出してみて、音割れの問題がないようであれば、逆にもう少し上げてしまってもよいと思う*2

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このようにマスター・ボリューム調整をあらかじめやっておけば、書き出し時の正規化処理は不要となる。逆に再度正規化してしまうと不必要に音量増となり、かえって音質が劣化するようである。

追記 (2018-03-28)

マスター(および各トラック)にリミッターもしくはマキシマイザーを挿して音圧を一定レベル以下に抑えるやり方がもっと簡単かつ確実である。

フリーズ処理は必要か

2mix前の楽曲再生時に、CPUメーターが要注意のイエロー領域に振り切るようであっても、レンダリング時に低負荷であれば特には問題なく、ノイズ混入もないようである*3

CPUの負担を減らす一般的な方策として、一部(またはすべて)のトラックをフリーズ(仮書き出し)する手段も考えられる。しかし、フリーズ用にレンダリングした際、何かしらのノイズ(クリップ・ノイズや直前レンダリング処理の残響らしき音など)が混入する場合があり、音質に注意が必要*4。こうした厄介な副作用もありうるため、私自身はあまり積極的には使いたくなく、少なくとも最終書き出し時には解除した方が無難だと思う*5。 

レンダリング品質の設定

ネット上へのアップロード公開も含め、最終的にMP3化するのであれば、WAV出力時は 48kHz/24bit がベター。音質(特に高音領域)のクリアさが全然違うように思う。言うまでもなく、圧縮による音質劣化は免れようがないので、圧縮前の元ファイルの質が粗いようだと輪をかけて音質が悪くなる。

試験的に 48kHz/24bit 作成したWAVファイルを SoundCloud に上げてブラウザーで再生したみたが、少なくとも音割れやクリッピングなどの目立った劣化はなく、特に問題なく試聴できた。下記コメントの通り、ストリーミング再生時は Opus コーデックで圧縮変換されるので、それ相応の劣化を見込み、元ファイルは 48kHz/24bit 以上の品質で作成した方がノイズ混入などのリスクが小さいように思う。

About the Audio Quality of Your Uploads - SoundCloud Help Community

おまけ

今回のリミックス・コンテストの習作を SoundCloud に上げてみたので、一例としてご参考まで。マスター音量をもうちょっと大きくしてもよかったかなと反省。その他、あの音はもう少し後ろに引っ込めたい等いろいろ改善すべき粗はあるものの、キリがないのでこの辺で妥協。

soundcloud.com

追記 (2018-03-28)

本作はDAW(当時はT5のみ)を触り出してから3ヶ月未満の間もない頃だったので、音圧レベルとかEQ処理などがまだまだ甘い素人臭さ全開で、今聴き直すとちょっと恥ずかしいですね。特に低域が埋没気味なところは残念な仕上がりである。しかし楽曲構成・アレンジは悪くないと思う、と自画自賛

*1:T5では、各トラックのフェーダーのプロパティ・パネルをいちいち開かないとレベル・メーターを確認できない。このようにミキシング・コンソール・ビューがないのは Tracktion の最大の泣き所で、製品レビューでもしばしば批判を受けていた。

*2:正規化ボリュームは意外に小さいレベルなので、物足りないと感じる場合はもう少し上げる余地は残っている。調整具合は楽曲にもよりけりで、耳で確認して試行錯誤で決めるしかないように思う。

*3:私の環境では、レンダリング・WAV出力時にCPU負荷率は常に10%未満を維持していた。一方、楽曲再生時は40%を超過することもままある。

*4:T5ではフリーズしたトラックだけを個別に再生することができないので、ノイズ混入した際の発生源の特定が非常に困難となる。したがって、いっそのこと該当トラックのオーディオ化書き出しで対応する方がいい。

*5:フリーズの主たる使用例として、ボーカル等外部録音時にCPU過負荷によるクリップノイズ混入を回避する目的がある。

オーディオ素材の加工とリミックス (Tracktion)

前回記事の蛇足。お試しの軽い気持ちでいろいろ制作作業をやってるうちにドハマリで、初心者なりに気づいた注意点や T5 (Tracktion 5) の限界などをメモしておきたい。

daw-jones.hatenablog.com

下準備について

素材吟味の重要性

今回は8種類のステムが用意されているが、当然ながらすべてを使用する必要はまったくなく、自分が料理したいと思う材料・ステムを厳選する。これはもう料理人の好みとセンスが頼りである。ほとんどこの段階で出来不出来が決まってしまうような気もする。

SleepFreaksの関連企画チュートリアルで指摘の通り、よほどの理由がない限り、ドラムとベースは独自制作の方がいいと思う。さもなくばリミックスをやる意味がなくなる。ただしいずれにせよ、率直に言って今回原曲のリズムとベースが非常に弱々しくて使い物にならないとは感じたが(あくまでそれだけを抜き出してしまえば、という意味で)。

原曲をどの程度参照するか

オリジナルは一度さらっと聴き流す程度にしておき、むしろ各ステムの方を聴き込んで吟味選択する方が重要だと思った。オリジナルを聴き込んでしまうと先入観が立って大胆なリミックスができなくなるからである。

素材の加工と下ごしらえ

使うと決めたステムは、繰り返し編集に使いやすいようループ素材として再加工する必要がある。ステムのオーディオ・クリップをスプリットしたり、リバースやタイムストレッチ加工といったオーディオ素材の初歩的な処理である。おそらくここはT5のみならず他のDAWもほぼ同じはずである。

T5で唯一の問題は、小節単位などに基づくオーディオ・クリップの自動切断処理ができないことである。つまり、凝ったカットアップ加工は事実上諦めざるを得ない*1。また、付属のサンプラーは非常に原始的な代物なので、他メーカーのプラグインを用意すべきだろう。

楽曲のテンポ決定

オーディオ素材の性質にもよるだろうが、T5の自動判別処理はあまり精度良くない印象。結局手探りで調整する羽目に。後ほど上記SleepFreaksのチュートリアル・ビデオで確認したところ、そのものずばりBPM=128と出ていた。小数点以下まで細かいテンポ設定がなされていた場合はちょっとお手上げかもしれない。Cubaseとか他のDAWではどうかは知らないが。

ミックスやマスター編集など(後日追記)

ミックスとマスター関連はあまりにも奥が深くて一度には書き切れないので、とりあえずT5でのレンダリング・書き出しについて一言だけ補記。

T5での2ミックス後の出力音質は結構良い方だと思う。言うまでもないことだが、WAVのままで聴いて済ますのではなく、mp3化したものをiTunesなりに取り込んで音質を確認する必要がある*2

T5からレンダリング出力(エキスポート)する場合、ピーク値0dBで音割れ防止の正規化はできる。もしもiTunes等ネット配信対応で最大値を規定通り-1dBに設定する場合は、別途Audacityを使った正規化が必要かと思う。

なお、このミックスやマスター関連のテクニックについては、現役エンジニアによる下記記事(長文)が非常に参考になった。本記事でも、やはりというべきか、低音処理の重要性が強調されている*3。あとはただただ勉強せねばならぬことが山ほどあるということです。

onibabako.amebaownd.com

 

最後に素人全開の愚痴。制作作業にあたっては、MIDIキーボードと21インチ以上の大画面ディスプレイが必須であることを今更ながらに痛感している。MacBookでは正直つらいことこの上ない。今年はiMacの27インチサイズでも買った方がいいのかもしれない。

 

*1:手動で切断処理はやろうと思えばできるが非常に手間がかかるし、労力に見合った効果が得られるかどうか不確実なため試行錯誤が困難である。Cubaseのハサミツールは羨ましい。

*2:iTunesだと、自分のお気に入り音楽ライブラリに入っている他のプロ楽曲との音圧等聴き比べが容易にできる。

*3:基本的にはクラブ・ミュージック前提の原則論。他ジャンルには必ずしも当てはまらない場合があるので、あまり絶対視しない方がいいと思う。ただ、日本の音楽家・エンジニアは欧米勢に比べて低域処理がかなり甘いという欠点は方々で指摘されている印象がある。

Re:animation リミックス・コンテスト

今ちょうど Re:animation のリミックス・コンテストが作品募集中で、私のようなDAW初心者はビギナー部門で練習がてらに応募してみるのもいいかもしれない。特にオーディオ素材の加工編集スキル習得にちょうどよい機会であろうと思う。MIDIばっかりでは面白さ半分だし、締め切り(3月27日)に間に合うかどうかはわからないが私もチャレンジしてみようと思う。

remixcontest.peatix.com

 

なお、連動企画で SleepFreaks のリミックス講座も始まったので、こちらも参考まで。ただし、DAWによっては、たとえば私の Tracktion 5 では簡単に対応できないテクもあろうかと思う。この辺りは後日稿を改めて書き記す。

sleepfreaks-dtm.com

 

リミックス用のいわゆるステム素材は、下記サイトより購入できるようだが、ある種のツールを使うとストリーミングから落とそうと思えば落とせる。

reanimationrecords.bandcamp.com

2015年2月期練習曲No.1の演習

先月末で一段落したMIDI検定2級2次試験練習曲による制作演習の続き。今月は、2015年2月期練習曲をNo.1から順番に取り上げて行く予定である。今日はその練習曲No.1の分析と勘所について補足しておきたい。

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ハンマリングとプリングオフ

この譜面では、ベンドレンジが2半音の前提であることに注意する。すなわち、協会提供のテンプレSMFでの設定通りである。ベンドレンジの設定は、楽曲や楽器パートによって時々このデフォルト設定から変更されることもある(たとえば2014年2月期練習曲No.4のように)。

おなじみのチョーキング(ベンディング)以外で注目すべきベンド・コントロールの適用場所としては、ギター・パートにおけるハンマリングとプリングオフの連続技である。具体的には、下記譜例のとおり、16分3連符で表記されている箇所である。

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ここは、基本はD4の8分音符でノート入力しておき、そのデュレーションの概ね3分割区分点でベンドを上げ下げすればよい。Dominoでの入力例は下図のとおりとなる。1/3進んだところでベンド値を8191に上げ、さらに1/3進んだ時点で再度0に戻すという具合である。 

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アクセント記号とベロシティ

下記譜例のようにアクセント記号が付いているノートに対しては、ベロシティを1ノッチ上げる。すなわち、そのパートの基準値より16だけ増加させる。ただし、ドラムについては譜面指定の通りとする。

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フルートなどのオクターブ解釈

フルートについては、最後の2小節で1オクターブ上げの指示があるので見落とさないように注意する。それ以外の小節では記譜通りで問題ない(模範演奏のサンプルMP3を聴いて確認済み)。

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オクターブと言えば、ギター・パートは1オクターブ下げて入力する必要があるので要注意である。低音部であることを意識しているベースは、1オクターブ下げることに常々注意を向けているが、ギターはつい忘れがちで、これも初歩的な落とし穴(ひっかけ)の一つある。

ドラムの理想的な入力手順

サルサ調の本曲はドラムが賑やかなアレンジのため、決まったリズムを繰り返し奏でる平均的なポップスよりも打ち込みにかなり労力を要すると思う。

ドラム・パーカッションの入力手順は大別して、楽器パーツ(パーカッション・ノート)ごとにまとめて打ち込むか、小節単位に完成させて行くか、の2方法が考えられる。

私個人の試行錯誤に基づく結論としては、ノート入力については小節単位に完成させて行く方法がベストである。こちらの手順の方が、ノート入力漏れのリスクが小さいからである。

しかしベロシティについては逆で、ノート入力の完了後、楽器パーツごとに一括で編集する方が楽である上、はるかに効率的である。Dominoでは、鍵盤GUIの該当ノートをクリック選択し、一括変更機能を使ってまとめて編集してしまう(下図参照)。

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ピアノの和音入力

ピアノは本曲のノート入力で一番しんどいパートであると思う。和音が多いため、理想を言えば、MIDIキーボードを使ってステップ入力で対処した方が速く入力できると思われる。

これはバッキング・パート入力の常とは思うが、DominoあるいはMMLによる打ち込みに際しては、同一パターンの進行が連続するように見えて実はコードなどの細部が異なっていないかどうか重々警戒する。ある意味、わざとノートミスを誘発するひっかけ問題になっていることがある。

複数音源のレイヤー合成 (Tracktion)

Tracktion 5 上での音色レイヤー合成の実現方法について備忘録的にまとめておく。

音色のレイヤー合成とその目的

レイヤー合成とは音色の重ね合わせのことであり、音色に厚みや広がりを持たせる目的でEDM等において多用される。単色では線が細いストリングズやパッド系の音色で効果を発揮するように思う。異なる音源プラグインを組み合わせるとより効果的であろう。

個人的には、ストリングズやブラス・セクションの補強テクニックとしての活用を念頭に置いている。たとえば、生楽器サンプルのストリングズはどうしてもアタックや音圧が弱いので、他のサンプル音源またはシンセの音色を重ねることで適度な厚みを出したい。

T5での実現方法

結論としては、ラックフィルターの機能を使う。

もっと安直な方法として、ソースのMIDIクリップを別のトラックにコピペし、異なる音源で同時に発音させてよいが、仮にMIDIデータの修正があった場合はコピペし直す必要があるため非常に効率が悪く、あまり実際的ではない。

下図は、ラックフィルターを使ったレイヤー合成の簡単な構成例である。この場合は、Synth1 と TAL Noisemaker を組み合わせて合成している。もちろん必要に応じてエフェクターなどのプラグインをいくらでも追加配線できる。ただし、CPUパワーとのバランスは考える必要がある。左手の青線がMIDIデータの入力線であり、右手の黄線はステレオ出力2チャンネル(左右)に対応する。

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このようなラックフィルターは、仮想的な音源プラグインとして、いわば一つの独立した楽器の役目を果たす。したがって、ミキシング編集においては、他のプラグインと同列に扱える。 

LANDRの試用感

AIで自動マスタリングするという触れ込みのWebサービス LANDR がずっと気になっていたのだが、無料サービスの範囲でちょっと試してみた。

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結論から言うと、特に必要ないな、という印象である。

今回の試用サンプルは、MIDI検定2級2次試験の2014年2月期練習曲No.4のMIDI打ち込みデータを Tracktion 5 に取り込み、独自に音色加工やエフェクト処理を加えたそれなりの完成品である。

試しに高音圧マスタリング処理を選択してみたが、結果として、LANDRの加工結果とオリジナルにほとんど差異を感じ取ることができなかった。強いて言えば、オリジナルのやや歪みがちな所を抑えて若干まろやかにしてくれたような所はある。しかしこれも指摘されればなんとなく判別できるという程度であって、非常に微妙な違いでしかない。

今回は、オリジナルですでにコンプやエンハンサーなどを掛けてそこそこ良い感じに仕上げてしまっていたので、これ以上加工の適用余地がないという限界はあると思う*1。だとすれば、たとえばマスター編集に長けたプロがわざわざ有料でLANDRを使う意味はあるのだろうか、という疑問は残る。

当初はMIDI検定の1級実技で最後の仕上げに使ってみようかとも考えていたが、自分である程度以上のレベルのマスター編集をやる・できる場合はわざわざ使う価値はないだろう、というのが率直な感想である。

*1:一応LANDR側の注意として、オリジナルの方ではあまりコンプを適用していない素の状態でアップロードしてほしい、と促される。

クラシック風楽曲の生楽器対応フリー音源

MIDI検定2級実技の場合はGM音源使用でもまったく問題なく、芸術評価がない分、少々音色のクオリティに不満が残ろうが特に対策を打つ必要はないと思われる。しかし、1級実技の2次審査ではそうも行かない可能性が高い。そうなると、例えば2014年の1級課題曲のような本格的なクラシック風楽曲にも対応するため、ストリングズ等管弦楽の生音源に近い音色は準備しておいた方が無難である*1

私は自主制作では生楽器音源を多用する予定はないので、費用対効果を第一義に考え、当面はとりあえず無償で入手できるフリーの音源プラグインを使い倒すことにしたい。それを念頭にMacでも使えるフリー音源を探し回ったところ、結局下記の2種類に落ち着いた*2

Sample Tank Custom Shop

言わずと知れたイタリアの著名サンプラー音源メーカー IK Multimedia 社の提供。基本音色セットは無償無制限に利用可能で、後から有償で個別の音源を追加することもできる。ユーザ登録とソフトウエアのアクティベーションは必要だが、導入に大きな手間はかからない。

私は特にオーケストラ・ストリングズ系の補強のためにあちこち探し回ったのだが、Mac対応のフリー版となると、まともな音源セットはこれしか見当たらなかった。なお、Windows対応版であれば数も種類も豊富で、ストリングズ専用のフリー音源などもある。

Sample Tank Custom Shop の機能概要や入手方法等については下記メーカーサイトの記事を参照されたい:

www.ikmultimedia.com

 

簡単な製品レビューとしては、DTMステーションの下記紹介記事も参考になるであろう(2年半前の記事でやや古いかも):

www.dtmstation.com

本音源のストリングズは、ピッチカートなどのアーティキュレーションにもある程度対応し、ADSRパラメータやエフェクト調整などによって音色加工も柔軟にできる。ストリングズ以外では、エレピの音色も非常に良く、あれこれエフェクトを掛けなくてもそのままで結構使えると思う。また、MIDIのコントロール・チェンジには一通り対応しているようである。

TracktionなどのDAWプラグインとして発音させる場合の注意点としては、MIDIクリップのMIDIチャネルと Sample Tank 側の楽器チャネルを一致させること。基本的には両方とも1チャンネル使用で問題ない(マルチ・ティンバーで発音させない限り)。

VSCOパブリック・ドメイン音源

場合によっては、上記 Sample Tank 音源だけでは楽器の種類が不足するので、必要に応じてお好みでVSCOライブラリから選ぶことにする。これはもともとサウンドフォント素材として公開されていたものだが、有志によってVSTi/AUプラグインに変換提供されているようである。

bcvsts.blogspot.jp

 

私はまだすべての楽器音色を試聴したわけではないが、いくつか試した限りでは、どうも楽器によって音質にバラツキがあるように感じられた。したがって、この中のすべての楽器音色が必ずしも実用に耐え得るわけではないことに注意する。

私自身の感想を言えば、本ライブラリのベスト音色はピアノだと思う。他メーカー製のピアノ音源は高音強調で硬い音色が多数を占める中、これは柔らかめの優しい音で非常にクオリティも高く、生演奏に近い。逆にフルートはクリップノイズらしきものが混入しており品質に難がある(Sample Tank のフルートを使えばよい)。またクラリネットやバイオリンはアタックが遅い・弱過ぎる等ちょっと使えそうにない印象*3

*1:1級課題曲は、作成担当者である外山和彦先生の音楽志向や来歴も手伝ってか、傾向としてジャズ、フュージョンやクラシカル風味な(やや時代遅れな)曲が中心なので、生楽器対策がどうしても必須となる。個人的にはあんまり好みのジャンルではないが止むを得ず。

*2:私がここで取り上げた音源2つは、偶然にもギター講座オンラインの2016年プラグイン紹介記事でもピックアップされていたので参考まで: 2016年に使い始めて来年以降もお世話になるであろうフリーVST、VSTi12個

*3:概してバイオリンのサンプリング音色はアタックの扱いが非常に難しい。シンセのストリングズ系音色と混ぜて調整するなどの加工テクが必要かもしれない。なお、Sample Tank のストリングズ音色はこのようなアタックにまつわる癖や障害はなく、使い勝手が良い。