DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

MIDIデータの移調方法 (再考)

以下の前回記事では、Studio One 側でMIDIデータ自体を移調編集してしまう方法を書いたが、効率的なワークフローの観点からはこれはあまり好ましくない方法だと判明したので、別法に改めたい。

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Studio One では記譜通りに入力する

Studio One では記譜通りにMIDIデータを入力し、移調は再生対応とする。すなわち、下例のようにインスペクターを開き、実音に対応する Transpose の値を半音単位で各トラック毎に指定する。

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Studio One ではMIDIデータは移調前の状態を保持して譜面に合わせ、MIDIデータ自体の移調編集はすべてDominoで一括加工する。この方法にした方がよい根拠は、以下の2点である:

  • MIDIノートのピッチとタイミングを後からチェックする際、移調後のデータだと検証が難しい。記譜通りであれば、譜面と照合して容易に確認できる。
  • 全休符を飛ばしてMIDIイベントを複数に分割して入力する場合、前回記事のように各イベント毎に移調を適用するとなると、何度も移調操作を繰り返して煩雑な上に、移調し忘れミスの恐れがある。

Dominoで一括移調する

上述のやり方で対処すると、Studio One から書き出したSMFは移調が反映されないままなので、Dominoで成果物SMFを作成する際にトラック毎に一括で移調編集する。

すなわち、移調対象のトラックを開いてMIDIノートをすべて選択後、メニューより イベント > トランスポーズ を選び、以下のような移調設定ウィンドウから操作する。

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MIDIデータの移調方法 (Studio One)

以前の記事でも少し触れた通り、MIDI検定1級では様々な移調楽器への対応を迫られるため、これについて検証、確認しておく。

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MIDIデータの移調方法

Studio One のみならず、多くのDAWでは移調対策として、

  • 再生時に自動的に移調する。MIDIデータは移調前の元の状態でよい。
  • 移調編集ツールを使ってMIDIデータそのものを移調して編集・作成する。

の2種類が用意されている。

前者の方がお手軽だが、この方法ではSMFに書き出した時に移調結果をMIDIデータに反映しない*1。したがって、すべてのMIDIイベントに対して直接トランスポーズを適用し、実際のノート・ピッチを移動させる必要がある。

具体的には、対象となるMIDIイベントをまとめて選択後、右クリックのコンテキスト・メニューより Transpose を選択して半音単位で移調させる。すると、MIDIのすべてのノート・ピッチが指定音数だけ移動することにより、移調後のMIDIデータが一括で作成される。

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移調解釈が必要な楽器について

いわゆる移調楽器としては、ホルンやクラリネットなどの管楽器が典型で、譜面を見ると他のパートと調性が異なることから移調が必要だとすぐわかる。移調楽器と移調方法(記音と実音との関係)については下記Wikipediaの一覧表に詳しい。

移調楽器 - Wikipedia

上述のような移調楽器のほかに、ギターとベース(ベース系統の弦楽器なども含む)については記譜より1オクターブ下げてMIDIデータを書く必要がある。これはMIDIによる楽曲制作の慣習みたいなもので、半ば常識化しており、2級実技でさえも譜面上いちいち指定はされないので注意を要する。

1級の場合、楽曲のパートに移調楽器が含まれる際は、制作規定書に注意解説が掲載されるはずであるが、常識に任せるつもりですべての移調楽器について逐一指摘してくれるかどうかは定かでない。

たとえば、2016年課題曲にはクラリネット(Bb管)のほかに、同類のバスクラリネットが含まれるが、どういうわけかこれについての注意書きは一切ない。バスクラリネットの場合、通常のクラリネット同様に2半音下げるだけでなく、さらに1オクターブ下げる必要がある(音部記号がト音記号の時)。移調が必要なことは譜面からも自明であろうが、ベースなのでオクターブ下げるところまで対応しないといけない*2

なお、1オクターブ下げ対応は、コントラバスダブルベース)でも必要であるが、これについても制作規定書には特に注記はなかった。

*1:Studio One (Prime版) の場合。他のDAWでは反映させるためのオプションなどがあるかもしれない。

*2:これに限らずオクターブ調整を失念してしまうと1次審査通過は困難になるので神経を使う所である。

テンポ・チェンジとMIDIデータ (Studio One)

以下の過去記事で書いたように、MIDI検定1級の成果物として提出するSMFにはテンポ・チェンジも反映させなければならないが、念のため検証したところ、Studio One とDominoの連携上は特に支障がないことが判明したので備忘録としてまとめておく。

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下例のようなテンポ・チェンジを入れたサンプル・ソングを Studio One で作成したとする。

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ここで、File > Save As よりファイル種別としてMIDIファイル(.mid)を選択の上で別名保存すれば、ソング(楽曲)全体をSMFとして書き出す*1。その際、テンポ・チェンジはメタイベント(SetTempoイベント)として漏れなく含まれる。試しにDominoで読み込むと、下図の通り Conductor Track に反映されていることがわかる*2。したがって、Domino側でわざわざテンポ・チェンジのデータを再追加する必要はない。

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Dominoでデータ表示させると明らかだが、SMFではテンポ・データは Track 0 (= Conductor Track) としてメタイベント専用のトラックに保存格納される*3。メタイベントについては、公式ガイドブックの pp.108-109 に簡単に解説されているが、あまり詳しくない。当たり前だが2級実技でも、楽曲のテンポ設定(冒頭1回のみ)でメタイベントは使っている。

*1:1級のみならず、2級実技における基礎MIDIデータの書き出しもこのやり方で一括出力すればよい。

*2:冒頭最初のテンポ等メタイベントはすべて1小節目の1拍目に揃えて書かれており、SysExメッセージの送信タイミングと重なるが、これは特に問題なさそうである。公式ガイドブックの「セットアップの具体例」pp.110-111 を参照。

*3:SMFの構成要素は大きくヘッダー・チャンクとトラック・チャンクに分類され、メタイベントはトラック・チャンクに含まれる特殊なトラックである。ヘッダーは、SMFのファイルフォーマット種別や分解能などが書かれる。SMFはバイナリー・ファイルなので、実物を容易に目視確認することができない点が学習者にとってはもどかしいところである。

MIDI検定1級課題曲セットの中身概観 (4)

前回からの続き。今回は、提出物3の作業レポートに関して概要を見る。なお、本丸のスコアについては制作実習に入ってから細かくポイントを洗い出していくつもりなので、1級課題曲セットの概観シリーズは今回で一旦締める。

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作業レポートの体裁

作業レポートはA3用紙一枚の大きさで*1、左右それぞれ1次審査用の記入欄と2次審査用記入欄から構成される。その他、住所氏名等記入欄と提出物証明書欄(自作であることを証明する自署欄)が付く。

以下に記すように、記入項目がさほど多くはないため、すべて筆記具による自筆記入であったとしても大して面倒ではないと思う。用紙をキャプチャ・PDF化してタイプ入力しようかとも考えていたが、そこまでする必要はなさそうである。2級用含め、レポート雛形ぐらいPDFで公開してくれてもよさそうなものなのに、とは思うが。

各項目の具体的な書き方については、同封の記入サンプルを見れば自明と思われる。

1次審査用記入欄

概観記事(2)で触れたように、各楽器パートのトラック番号およびMIDIチャネルとGM音色(プログラム・チェンジ)に関しては、本記入欄にあらかじめ印字指定されている。各チャネルのボリュームとパンは任意だが、実際の設定値を本欄に記入する。

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追加で制作環境を記載する欄が設けられており、使用DAWMIDIキーボード、音源、PC製品名などを自由に記入する。

2次審査用記入欄

一番頭に、アピールポイントなどを書く自由記入欄がある。特別な表現解釈などをした場合もここに記載する。本欄で書き切れない場合は裏面使用も可とのこと。

その下のリストには、各パートごとに使用した音源(ソフトとハードを問わず)を記入する。2次審査用に同一パートを複数の音源で表現する等1次審査用データと異なる対応をした場合はその旨記入することになっている。

追加で、使用したDAWとCDライティング・ソフトを記入する欄が設けられている。

*1:因みにスコアもA3横サイズである。

MIDI検定1級課題曲セットの中身概観 (3)

前回の続きで、制作規定書の注意点をチェックする。今回は、提出物2(2次審査用オーディオCD)に関して。提出物3(作業レポート)については次回に触れる。

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2次審査は聴感審査と芸術評価のみとなるため、1次審査と違ってあれこれと細かい規定はない。要するに、再生の出来栄えさえ良ければ受験者の好き勝手に様々なツールを駆使して自由に制作することが認められている。極端な話、一部のパートで生楽器演奏の録音を混ぜても全然問題ないということになる*1

したがって、1次審査用に提出するMIDIデータと2次審査用のそれは必ずしも一致する必要はなく、制作規定書にもその旨明記されている。この点は受験案内やFAQの情報より想定の範囲内ではある。

はっきり言ってしまえば、2次審査はMIDIデータによる表現の巧拙よりも、音源の音質や性能で相当部分決着がついてしまうと予想される。なので、あまりしょぼい音源を使うとそれだけで最初から損をする羽目に陥る。そういう意味でも、私の場合は Studio One を Prime 版から Professional 版へアップグレードするか、または Tracktion 5 から Waveform へアップグレードすることは不可避と思われる。 

その他念頭に置くべき数少ない特記事項としては、

  • 楽曲オーディオの前後の無音部分はそれぞれ5秒以内とする。
  • データCDではなく、オーディオCD(CD-DAフォーマット)を作成する。媒体は、(データ用ではなく)音楽用のCD-Rが望ましい。これは以前書いた過去記事でも確認済み。

*1:その場合でも当然だが1次審査用のMIDIデータは制作しなければならない。例えばギターは生楽器演奏で対応できる可能性・現実性が最も高いと思う。もっとも、実際のところ部分的にも生演奏で対応する受験者は少ないだろう。

MIDI検定1級課題曲セットの中身概観 (2)

前回の続き。今回は制作規定書のうち、提出物1(1次審査用MIDIデータ)に関する規定項目についてチェックする。

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システム・セットアップデータについて

冒頭1小節目のセットアップ・データについては、いくつか細かい指示があるものの、ここは率直に言って2級2次試験用の協会提供テンプレを流用するのが一番簡単かつ確実であると思う。

2級と勝手が違う点は以下の通り:

  • 各パートの音色(プログラム・チェンジ)およびチャネルについては、作業レポート(次回概観予定)の「1次審査用MIDIデータの情報」欄に指定されている通りに設定する。
  • チャネルごとのボリューム(CC#7)およびパンポット(CC#10)は任意でよい(指定なし)。
  • 2級では必ず指定されているリバーブ(CC#91)とコーラス(CC#93)についての規定はない。よってこれらも任意でよいと解釈できる(設定なし・デフォルトでも問題ないはず)。
  • 逆に2級にはない特異な規定が1点あり、1小節目のセットアップ小節は BPM=120 に設定する必要がある*1。ということは、2小節目冒頭にテンポチェンジを挿入し、楽曲本来のテンポを再設定する必要がある(2016年課題曲の場合はBPM=76)。

採点対象について

MIDIデータの審査基準については、概ね以下の過去記事で考察した通りとなっている:

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繰り返しになるが、1次審査ではあくまでノートのタイミングとピッチしか採点されない。したがって、ゲートタイムやベロシティ、コントロール・チェンジについては任意に調整できる。その際、ノート含めて同一データの重複は減点対象となるので要注意である。

ピッチベンド・チェンジ使用時は、ノートオンより1ティック以上前に入れ、ゼロ戻しはノートオフより1ティック以上後に入れる旨の注記があるが、これは2級実技経験者ならば常識の範囲であろう。

トレモロ等は記譜上のピッチと最初の発音タイミングのみが評価される。したがって、MIDIデータで表現するか、音源側で対応するかはある程度自由選択の余地があると思われる。

その他特殊な表現等に関して

その他、以下3点につき注記あり。

装飾音符

主音より前のタイミングで何らかのノートが入っていればそれでOKということのようで、基本は採点対象外。逆に言うと、装飾音符に相当するノートが欠落していると減点される。

常識的には、主音の直前に32分音符等ごく短いノートを入れておけば間違いないとは思う。音符の長さは実際に耳で聴いて調整するべきであろう。

移調楽器

2016年課題曲はクラシック調の楽曲であるため、クラリネットやホルン、ピッコロ、グロッケンといった移調楽器の譜面解釈法(記譜上の音程と実際に発音する音程との関係)について一応丁寧に解説されている。

ここはクラシック畑の人かブラスバンド経験者でないとなかなか難しい領域だが、わからない場合はネットで検索すれば大抵なんらかの基礎知識は確認できる。

リタルダンド

テンポチェンジについては任意で調整可能。ただし、テンポチェンジがまったく入っていないと減点されるとのこと。これは上記装飾音符と同様の扱いとなる。

換言すると、テンポチェンジのデータがMIDIデータとして書き出されていない場合は減点するということなので、DAWで設定したテンポチェンジがMIDIデータに反映されるかどうか念のために確認しておく必要がある。

私の場合、Studio One で設定したテンポチェンジのデータがMIDIデータとして吐き出されるかどうか、やや懸念される。最悪は Domino 側で調整・設定すればよいが、これは後日検証しておきたい。

*1:おそらく冒頭無音部分の長さ調整目的か。

MIDI検定1級課題曲セットの中身概観 (1)

先日に2016年第8回MIDI検定1級課題曲セットを入手したので、紹介がてら何回かに分けてドキュメントの概要や審査ルールなどをざっと確認しておきたい。なお、著作権等の事情により文書丸ごとをスキャンしてアップロードすることは控える。

入手方法など

入手可能な過年度の課題曲と申し込み方法(および1セット内訳)の詳細については、協会サイト内の下記ページを参照されたい:

MIDI検定1級試験(課題曲set)の販売のご案内

代金の支払い方法は、郵便振込みとゆうちょ銀口座への振込みの2種類から選べる。私のようなゆうちょ銀口座を保有していない人は、ATMによる郵便振込みの方が振込手数料最安となるはずである。ただし、振り込んでから現物の郵送入手まで1週間程度を見込む必要がある。

なお、複数年度をまとめて入手する場合の郵送料がどういう扱いになるかは、協会事務局に直接問い合わせて確認してもらった方がよい。私は月一程度のペースでゆっくりと段階的に入手するつもりなので個別郵送でも全然問題ないが*1

ドキュメント1: 受験者の皆様へ

これは基本的に受験案内とほぼ同様の内容の繰り返しである。要点は、提出物3点(データCD、オーディオCDおよび作業レポート)とその提出先および提出期限についてである。

以下常識の範囲ではあるが、要注意事項としては、

  • CDは専用ケースに入れる。
  • 提出物3点はクッション封筒(大きさは任意)に入れて郵送する。
  • ポスト投函は避けて、窓口にて簡易書留による送付を手続きする(ことが望ましい)。

ドキュメント2: コンポーザーからのメッセージ

A4紙1枚にて作曲者(おそらく外山和彦先生)より楽曲の勘所などを指摘。また、譜面上やや特殊な記号が使用されている場合はその解釈方法について補足される。2016年の譜面では、ホルンのゲシュトップフト奏法に関する補記がある。

スコア解釈や各楽器特有の奏法、音源対応などについては、制作実習に伴いつつ要注意点などを追って書き足していくつもりである。

現時点で言えることは、クラシックの素養がないとちょっと辛いかも、という感想の一言である。

 

次回は、熟読必須の制作規定書について概観する。

*1:過去記事でも何度か書いている通り、私の1級受験は早くとも来年(!)の夏である。