DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

IEC国際標準規格となったMIDI

先日郵送されてきたMIDI検定2級1次試験案内のカバーレターには、MIDIが本年6月にIECの国際標準規格として認定された旨が書き添えられていた。メディアではまったく報じられなかったので、初めて知った次第。

webstore.iec.ch

 

MIDI検定の案内ページでも概説されているように、MIDIはもともと日米の楽器メーカーが電子楽器業界の標準規格として立ち上げた民間仕様に始まるが、その後のインターネットの興隆やスマホ等新たなデバイスの登場発展に伴い、他標準化団体へのMIDI採用の働きかけや、より広汎な標準規格としての地位向上をAMEI/MMAが主体となり精力的に取り組んできた経緯がある。一見地味ではあるが、今回のIEC標準規格承認もそのような取り組みの一環として結実したものである。今後はWeb標準APIやIoTなどの分野でも国際標準として堂々浸透していく道が拓けたと言えるだろう。

AMEI経産省の後押しもあってIEC標準化に本格的に着手しだしたのは2010年頃らしく、その辺の事情に関しては AMEI News Vol.43 (PDF) に詳しい。特に新興国市場での各国独自仕様の乱立を懸念して先手を打つという狙いがあった模様である。明記はされていないが、おそらく中国の動向が念頭にあったことは想像に難くない。実質的にはMIDI1.0規格書がそのまま標準仕様として認められたということのようであり、現行仕様からの変更修正は(今のところ)ないと聞く。また、現時点で末端ユーザに直接の影響があるというわけではない。

AMEI/MMAとしては7年越しの地道な活動がようやく実り、MIDI30年の歴史の中でも大きなメルクマールとなったことは間違いないであろう。日米連合とはいえ、実態としては日本の大手楽器メーカーの発言力が大きいだろうから、どちらかと言えば国際標準化交渉を苦手とする日本メーカーにとっては久しぶりの(?)明るい話題ではなかろうか。

MIDI検定2級1次試験の受験申し込み始まってます

昨年末に3級を受験した関係で、本日AMEIより平成29年度第19回MIDI検定2級1次試験の受験案内および受験料の払込取扱票(いわゆる郵便振込用紙)が郵送されてきた。この夏はMIDI検定1級の実技演習を休止していたせいでうっかり忘れていたが、出願期間はちょうど1週間前の9月4日よりすでに始まっていたことに初めて気づく。何を隠そう、私も今回受験予定の身である。

受験申し込み消印有効期限は10月31日まで、とまだ全然余裕はあるが、受験者が集中する首都圏の出願者は希望の会場を押さえるためになるべく早期に手続きしてしまった方がよいかもしれない。それ以外の地方受験者はそう慌てる必要はないと思うが*1

実は私はすでに2級の1次・2次双方の受験対策は終えてしまっており*2、その際書いた下記記事でも触れたとおり、1次・2次両方合わせて概ね6ヶ月かかっている。その経験に基づけば、初級者は今から準備したとしても来年2月の2級2次までなんとか間に合う可能性はある。当然上級レベルの受験者であれば、もっと短い準備時間で済む。いずれにせよ1次の方は、イベントリスト問題を除いて楽勝レベルなので、1ヶ月もあれば準備あるいは復習可能であろう。

daw-jones.hatenablog.com

*1:ここ数年の傾向として、2級1次受験者数は例年全国で150名にも満たない。それもおそらく大半は首都圏、特に東京在住者あることは想像に難くない。

*2:もちろん再度の復習が必要であることは言うまでもなく。

Tracktion 6 新機能概要メモ

Tracktion 6(以下T6)が無償版になったので、早速前バージョン5よりアップグレードして主たる新機能をざっと確認してみたので備忘録として簡単にメモ書きしておく。

daw-jones.hatenablog.com

 

T6無償公開前後からおそらくTracktionを検索キーワードにして本ブログを訪問しているアクセスが激増しているようで少々驚いた。国内では言うまでもなく Cubase あるいは Studio One ユーザが多数を占めており、UIが一癖あるTracktion(およびWaveform)は非常にマイナーな存在に過ぎないと思っていたが、無償または安価な割には高機能ゆえ、徐々に愛用者を増やしているのかもしれない。もともとTracktion関連の日本語資料は皆無と言っていいほど乏しいため、本記事含めて多少とも役に立てれば幸いである。

なお、新機能概要については、以下の公式チュートリアルを参照。基本はこれに沿って個人的に関心がある点などを簡単に書き添えておく。

www.tracktion.com

Step Clip

本アップグレード最大の目玉機能の一つ。この Step Clip 自体はT5から備わっていたが、T6よりようやくベロシティとゲートタイムの調整機能などが加わって大幅に強化された。リズム制作では素のMIDI打ち込みよりも遥かに効率的だろうと思う。

また、同一クリップ上で複数音源を組み合わせてパターンを組むことも可能となった。これは rack filter (Studio One の Multi-instrument 機能にほぼ相当)を拡張することで実現しているが、システムが自動的に配線設定するため、ユーザはややこしい設定の中身を意識する必要はない。

ベロシティについては、キックやスネア等各パート(チャネル)毎の全体の基準ベロシティは0-127値で、各ノートの強弱は0-100%値で編集するようになっている。チャネル毎の一括調整機能は結構便利だと思う。

オーディオ機能強化

基本のオーディオ編集機能も強化され、T5より進歩したが、この辺は正直言って他DAWにやっと追いついたというレベルだと思う。しかしすべて無償で使える。

Pitch-fade

オーディオ・クリップのフェードイン・アウト機能をピッチにまで拡張したもの。いわゆるDJターンテーブルのような効果をもたらす。これは Studio One にはなかったのではないか(確証ないが)。

オーディオ・クリップの結合

複数のオーディオ・クリップを一つのクリップに統合できるようになった。しかしこれはあって当然とも思える機能で、T5までなかった(?)ことが不思議なぐらい。

Warp Time

オーディオ・クリップのタイミング補正編集機能。あるいはオーディオのクオンタイズを可能にする機能と言ってよい。ただし、T6では手動調整のみのようなので、あまり長いクリップの編集は難しい。おそらく Studio One で言う所の Audio Bend 機能に該当すると思われるが*1、Studio One は自動的にtransientを分析してクオンタイズまでやってのける。

エフェクトやミックス関連

使いやすくなったオートメーション

オートメーションは、ドラッグ&ドラップで目的とする効果を簡単にオートメーション・トラックへ適用できるようになった。これは個人的には Studio One のオートメーションUIよりも使いやすい感じがする。

automation remapping は、楽曲のテンポ修正後もオートメーション変化点の相対的なタイミングを保持する機能だが、これはむしろあって当然。

Compressor Side-chain

実はT5では存在しなかったサイドチェイン機能。やっと他DAWに追いついたと言える。もっとも、rack filter の拡張で実現しているため、他DAWに比して若干とっつきにくい印象はある(すぐ慣れるが)。T6付属の純正コンプレッサー以外で対応可能かどうかは未確認。

その他ユーティリティ

Plugin Organizer

多数のプラグインをフォルダー別に整理カスタマイズしてメニュー表示できるようになった。これも最初からあって不思議はない機能。ただし、まだサムネイル表示まではできない(確かWaveform以降)。

Track Tags

各トラックをタグ付けしてグルーピングし、表示・非表示を簡単に切り替えることができるようになっている。トラック数が非常に多い場合は編集作業で重宝すると思う。これもあって当然の機能という感じはする。この辺のUIは Studio One の方が一日の長があって洗練されている。

*1:残念ながら無償のPrime版ではサポートされておらず。

Tracktion 6 が無償版になった

昨日たまたま Tracktion の本家サイトをチェックしていたら、Tracktion 6 (以下T6)が無償提供され始めたことを発見して驚いた。以下の記事でもレポートされているが、まだ日本のメディアでは報じられていないようである。なお、既存登録ユーザは通知メールが届いていると思う。

bedroomproducersblog.com

でも考えてみれば、毎年夏の終わりから秋にかけては、各社ともアップグレードやバーゲンセール祭りで販促をかけることが定例化しているため、昨年来の無償バージョンである Tracktion 5 (以下T5)がそろそろ引退してT6に交代することは想定の範囲内ではある。 

新規機能概要などについては、以下の公式チュートリアルのページを参照(私もこれから追々確認する途中)。

www.tracktion.com

アップグレード上の注意点など

unlockして無制限使用するには、ユーザ登録が必須である。T5ユーザは、T6のインストーラーを落としてインストールすると上書きインストールされるが、ユーザ設定などはそのまま引き継ぐので心配ない。

ざっと見たところ、メインの編集UIに関してはT5とまったく変化がないと言ってよい。おまけにアプリケーション・フォルダー中のパッケージ名は旧バージョンの Tracktion 5 のままなので*1、果たして正常に更新されたのかどうか不安になるが、アプリケーションのアイコンが色付きで若干変更になっていることと、T6起動後に Projects タブ左下の Help > About ページからバージョンを確認すれば問題ないことがわかると思う(下図参照)。

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*1:Mac版の場合。

AI活用楽曲をプロがリリースの時代

先週の下記 The Verge の記事は、今偶然にも私自身が色々と自動作曲ツールを渉猟している最中でのニュースだったので、ついに来たかという感慨を深めた一件であった。

www.theverge.com

要は、AIによる楽曲生成ツールを使って曲の断片を作り、独自の工夫によりそれらをつなぎ合わせて完成品に仕上げる手法を採用したとのこと。ご自身はピアノが多少弾ける程度のスキルで、ゼロからメロディを編み出すことはあまり得意ではない、というかそもそもそのようなメロディや作詞ありきのアプローチは以前から採っていないらしく、そのあたりのスキルレベルや自動作曲ツールの使い方に関する基本スタンスは私とよく共通している印象があった。方法論としては今後のAI作曲ツールを使った自主制作で参考にできるかと思う。

数あるツールの中でも本作で中心的な役割を果たしたのは Amper Music なるWeb サービスで、これはどうも以前私が試した Jukedeck とモロ被りするサービスのように見受ける*1

www.ampermusic.com

 

Amper Music については、かのDTMステーションでも3月上旬にレビューされているが、かなり辛口の評価が下されている。このレポートによれば、残念ながらWAVもしくはMP3のみダウンロード可能で、MIDIデータ(SMF)は落とせないようである(この制約はJukedeckと同様)。

www.dtmstation.com

半年経過後の現在でどの程度改良が加えられたか検証する意味でも、後日自分自身で実際に試した上で雑感などを少々書き記すことにしたい。

*1:Jukedeckの試用記事については次の過去記事を参照: AI作曲家のJukedeckに頼む

Magentaによるメロディ生成 (2) Magenta実行環境

前回の続き(かなりマニアックです)。

daw-jones.hatenablog.com

前回記事の最後で触れたように、Magentaの実行環境を構築する方法はいくつか存在するが、私は今回はDockerを使った導入方法を選んだ*1。というのも、これが最も単純明快で、かつ既存環境とのコンフリクト等技術的な罠にはまるリスクが小さいからである。迷っているならばこの方法を推奨したい。

Dockerを使うことによるメリット

Dockerを使えば、Magentaに関わるPython絡みの環境をMac本体の既存環境から完全に分離できるため、導入することによる副作用の心配をしなくて済む。たとえば、新たにPython 2.7系をMac本体に下手に入れると、macOS付属のPython 2.7系と干渉するおそれがあるのだが、Dockerを介したコンテナ環境であればそのような懸念はない。

なので、お手本にするつもりである以下のチュートリアルは、最初の0章(導入章)はスキップして1章からなぞることにする。

qiita.com

Dockerによる導入方法

ラッキーなことに、Magentaの実行環境一式はDockerイメージとしてそのまま落として即利用可能になっている。しかも、本コンテナのダウンロードと起動はdockerコマンド一発でできる。詳細は以下の記事資料を参照されたい(「Dockerを起動する」の節)。 蛇足ながら、本コンテナのイメージサイズは約2.4GBであり、Magentaの起動環境OSはLinux (Ubuntu 16.04.2 LTS) となっていた。

qiita.com

なお、楽曲生成コマンドは現バージョンでは改訂されていることに注意する。上記記事の「作曲してみる」のところは情報がやや古いため、下記本家サイトの最新解説を参照して再確認した方がよいだろう(melody_rnn_generateコマンドを使うシンプルな方式に改善されているようである)。当ブログの主眼であるMIDIデータの生成テストについては次回以降に試そうと思う。

github.com

*1:Dockerはコンテナ技術の代表的な(というかデファクトの)ソフトウエアで、Community Edition は無償利用可能である。詳細については本ブログの守備範囲を大きく逸脱するので割愛する。

Magentaによるメロディ生成 (1) 資料など

夏休みの自動作曲探求シリーズの終章として、AIベースの楽曲生成モデルをできる範囲で実際に試してみたいと思う。これまでは、アプリやWebサービスの形態でお手軽にすぐ使えるツールのみを少々漁ってきたが、ここから先はMIDIの基本や(若干の)Pythonプログラミングの知識が必要とされる。

daw-jones.hatenablog.com

上記記事の予告通り、今回動かしてみるモデルは Magenta とする。環境構築など前準備などが必要になるため、何回かに分けてゆっくり順を追いながらトライしようと思う。

github.com

資料やチュートリアルなど

MagentaはGoogle発のプロジェクトという出自も手伝ってか、おそらくこの手の音楽生成AIでは一番メジャーで、かつ開発も活発であるようだ。そのため、入門資料も比較的数多く転がっており、ここ1年内でも良質な日本語解説記事がQiitaを中心にいくつか投稿されている。なので、細かいテクニカルな話はこれらの優れた記事を引用するにとどめ、このブログではあまりくどくならないように配慮したい。

qiita.com

一番新しい記事では、以下の参考資料がかなり有益そうなので、基本はこれに沿って試行錯誤してみようかと思う。

qiita.com

Pythonの環境に関して

ちょっと厄介なことに、Magentaは今のところ Python 2.7 系しかサポートされておらず、私が普段使っているMac上の3.6系では動かせない。解決策としては、virtualenvを使うか、Dockerコンテナを入れるかして2.7系環境を別途構築する方策がいくつかあるが*1、これについては次回触れる。

*1:macOS付属の Python 2.7.10 環境は下手に弄って破壊すると困るので使わないでおく。