DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

結局のところ和声学習が早道ではないかという話

素人ながらも思い浮かんだ鼻歌メロディーに対してどのように和音を当てればよいか、というのは大きな課題の一つであり、この技能を果たしてどのように習得すればいいのかずっと頭を悩ましてきた。

ポピュラー・ジャンルの場合だと誰でも思いつくのはコード進行理論を学べばいいということになり、実際書店に行けばコード進行と名のつく教本は腐るほど目につくのだが、これが如何せん典型的な進行パターンの羅列に過ぎない教科書が多く、無味乾燥な上に背景に潜む理屈がほとんどわからない。

ポピュラーのコード進行論の場合、要はコードありきでその上にベースラインやらメロディーを乗せるという逆転の発想になっているように見え、冒頭述べたような所与のメロディーに対してどのように和音を構成するかという問いにはストレートに答えてくれていない。なので、ありがちなのが定番コード進行からまず出発してメロディーを適当に考えるというアプローチなのだが、これがまぁなんというか手堅くはあるもののありきたりで凡庸、退屈極まりない結果しか出せない。

それで色々と探っていたところ、どうやら音大クラシック畑では常識である和声理論を学習するのがベスト、という事実に今頃になってようやく気付いた。ざっくり言えば、ポピュラーもといジャズのコード理論はクラシックの和声理論を拡張したものなので、基本は和声を勉強するのが王道なのである。さらに言えば、古典的和声はいわゆる対位法から発展している歴史的経緯を踏まえ、音大(および音大受験勉強)では対位法も学ぶのが標準であるが、素人DTMの場合はそこはひとまず置いておくとする。

定番の教科書三選

コード進行論同様に和声の教科書も山のように存在しているものの、自分が調べた範囲では現在のところ以下の3冊が高評価かつ音大教育においても教科書として使用されているようである:

いわゆる藝大和声とか島岡和声と言われている定番中の定番である教科書。全部で3分冊+演習模範解答集からなる大著。長らく日本の音大和声教育で標準テキストの地位を占めてきた。私は音大関係者ではないのではっきりとした統計は不明であるが、YouTubeの動画などを拝見する限りでは今でも教科書として使用され、これで和声を学んだ音大生は少なくないように見受ける。

ただ、この教科書はいくつか問題があるようで、

  • 初版が1964年と半世紀以上も前であるためさすがに記述方法・内容が古過ぎる(途中改訂はあったものの)。書き方がなんだか数学の教科書みたいで堅苦しい。「公理」(要は禁則ルール等のことです)という単語が頻出するのを目にして苦笑。
  • 3分冊で高価。IとIIはともかく、IIIは500ページ近い大作の上に税込7千円弱という専門書にありがちなお財布にやさしくないお値段。
  • 和声の分類が独自記号体系で書かれていて少なくとも国際的には通用しない。例えば転回形は今日では数字付き低音で表すのが海外でも一般的らしいが、この本では転回指数表記(第1転回形ならば右上に"1"を添字表記)となっている。因みに今の東京藝大入試問題ではこの本の表記法はもう使われていないようだった。
  • 専門家のお話によれば、いわゆるIIIの和音が一切取り上げられていないとのこと。古典クラシックではIIIの和音が禁則的扱いを受けていたことに由来するようだが、現代ポピュラーではそのような禁忌は特になく堂々と使われるため不足を生じる。
新しい和声──理論と聴感覚の統合

新しい和声──理論と聴感覚の統合

  • 作者:林達也
  • アルテスパブリッシング
Amazon

上述の藝大和声を乗り越えるべく2015年に出版された最新の教科書。東京藝大では今はこちらの教科書を使用しているという話も聞いたことがあるが真偽は不明。

一冊に凝縮してくれたのは大変ありがたいのだが、Amazonユーザ評によればそのために端折ったところも多く散見され、独習には向いていないようである。要は音大講義テキストとして購入するならともかく独学本としては未完成ということらしい。一方で藝大和声とは違って記法が国際標準に改まっているのはよいと思う。

圧縮された編集内容のせいか、藝大和声を学んでからでないと取り組みにくいという評も見られ、そうであるならば結局のところ藝大和声をやればよいのでは、という結論になってしまう。

2006年出版でこれも比較的新しく、大阪音大の副課教材+独習用として編纂されたとのこと。各巻200ページ程度で上下2巻構成とボリューム的にもちょうどいい塩梅かと思う。

Amazonユーザ評によれば、網羅している内容としては藝大和声とほぼ同じらしいので、藝大和声本が too much という向きにはこちらの方がフィットするのではないかと思われる。私のようなアマチュアもその部類に入るだろう。

大阪音大以外の音大教育でどの程度この教科書が受け入れられているのかは存じ上げないが、少なくともユーザ書評では致命的な評価を受けていないようだったので独習用教材として使用するにあたっての大きな支障は特にないかと思う。

私の結論

ということで、私個人としては「明解和声法」をメイン・テキストとして藝大和声を事典的に参照するというようなアプローチで学んでいきたいと思う。アマレベルとしてはこれで十分だろう*1。今後学習の過程で参考記事をいくつか投稿することも考えてます。

なお、藝大和声本は今すぐ買うかどうかはわからない(躊躇している)が、アマチュアでも事典として常備しておくのは悪くないかもしれない。「新しい和声」は「明解和声法」を一通り修得してから参考書として買う可能性あるがかなり先のことになりそうではある。

あと、YouTube上で和声法や対位法の講義動画がこれまた山のように公開されているので(相変わらずどの分野もレッドオーシャンですな...)、参考にさせてもらった動画は随時共有することにしたい。

*1:逆に作曲科専攻の音大生や音大受験生は藝大和声をIII巻までみっちり仕込んで演習も全て制覇しないと話にならんのでしょうね。