MIDI検定1級演習 2017年課題曲 (1) 概観
時の経過は速いもので、本年度MIDI検定1級試験の本番までいつの間にやらあと3ヶ月となった。そこで一応最後の演習・準備として、昨年2017年度の課題曲を実践演習することにしたい。
個別詳細なテクニックや注意点などについては演習がてら順に追記していくつもりだが、今回はスコア全体や制作規定書にざっと目を通した印象および注目点等を簡単に書いておくとする。
なお、私は本作以外に3曲の過年度課題曲演習をすでに手掛けていて、それぞれ譜面解釈などの注意点やMIDI打ち込みテクニックに関するちょっとした注釈シリーズ記事を書いているので、興味ある方はご参考まで。
演習題材の概要
2017年課題曲は、ベートーベン交響曲第5番「運命」をラテン風にアレンジした作品である。これが全然クラシック風ではなく、パーカッションてんこ盛りのリズム隊が中心となった楽曲であるところが面白い。と同時に受験者泣かせの編曲であったようだが、これについては後述する。
前年2016年課題曲は、リズム・パートなしでボリュームの少ないクラシック風楽曲だったため、その反動で一転してリズムを全面に押し出したジャンルを持ってきた感はある。今年は果たして再度クラシック風に戻るのかどうか*1。
スコアおよび制作規定書概観
本曲の中心課題はパーカッションであろう。またエレキをどうリアルに表現するかも大きな課題の一つだと思われる。
分量
パーカッションだけで8パートから構成されるため、全パート(トラック)数が23とおそらく過去最大の構成数である。長さは78小節であるから、これはポピュラー課題曲の例年とそう変わりはない(若干少なめ)。
ただ幸いなことに、どのパートもほぼすべて8分音符で構成されているので、総ノート数の観点では極端に多いというわけでもないと思う。その他、例年見られるような表現がいくつか盛り込まれていないせいで、むしろ制作が楽な側面もある。
転調やテンポ変更など
テンポ変更は、冒頭導入部5小節(「運命」の有名なモチーフであるジャジャジャジャーン)から本編へ移るところ1箇所のみで、あとはずっと同じテンポのままとなる。変拍子は冒頭導入部のみだが、リズミカルな箇所ではないため特に難しくはない。
また1級課題曲としては非常に珍しいことに転調がなく、元ネタの「運命」と同じくハ短調(Cmin)をずっとキープする。この点はMIDI打ち込み上例年よりも楽である。
なお、テンポには"ca."記号*2が付されているが、1次審査用のMIDIデータでは記載数値の通りに作成する旨の規定がある。2次審査用のデータについてもわざわざ微調整する必要はなかろう。
システム・セットアップデータ
これは結論から言えば2級実技と同じ仕様である。ただし、セットアップ小節のテンポを BPM(4/4)=120 にする必要がある。この規定は1級発足当初はなかったのだが、2016年課題曲にもあり、たぶん近年になってから追加されたと思われる。おそらく今年も同様であろう。
移調など
ベースとコントラバス、およびエレキについては、実音を記譜より1オクターブ下げて打ち込む必要がある。ただし、ベースは音源の都合上再生時は記譜通りにする(Studio One の音源 Presence XT の場合)。
その他の移調楽器はない。
音源音色など
エレキは2パートあって、さらにディストーションとミュートの途中エフェクト指定もあり、音色の選定が一番肝となる。2011年課題曲演習で検証したように、Studio One (Prime) の Presence XT に入っているギター音色だけでもギリギリ対応可能とは思うが、GarageBand や他の音源音色を当てはめた方がむしろ効果的かもしれない。この辺は後日検証する必要があるが、制作の手間を考えれば可能な限り Studio One だけで済ませて妥協したいところではある。
コントラバスは、ボウイング奏法の音色が Presence XT にないので、別の音源で再生させる必要があるが、これは実は2016年課題曲でも同じ問題があった。詳しくは後日。
装飾音符
これも1級課題曲では珍しく、本曲では装飾音符が一切ない。ちなみに、最近の傾向として、装飾音符は1次審査の対象外となっている(何らかの表現データが入っているか否かのみチェックされる)。
類似表現としては、エレキのベンディング(チョーキング)が数カ所見られるが、これらはすべてピッチベンド・チェンジを使えばよく、MIDI打ち込み上は装飾音符よりも容易である。
弦楽器
バイオリンのパートでは、1級で定番のトレモロとトリルが案の定盛り込まれている。これらはすでに他の課題曲で解説済みだが、復習を兼ねて後日再度触れることにしたい。
ヴィオラはハ音記号で記譜されているため、五線譜の第3線をC3(中央ド)とする。
"Violoncello"は普通にチェロの音色で対応すればよいと思われる。
パーカッション
パーカッションについては、以下の3点で特異な点が見られる。
- 音色別に全部で8つのパートから構成される。
- スコアはいわゆるドラム譜に類するフォーマットではなく、GMパーカッション・マップのノート・ナンバーに対応する音符をそのまま五線譜上に記してある。したがって、GMパーカション・マップとの照合が必須となる。DAWでのMIDIデータ入力時においても、ドラム用編集モードではなく通常のピアノロール表示の方がよい(後日詳述)。
- 8パートに分解されているが、MIDIチャネルとしてはすべて10チャネルに割り当てられている。すなわち、DAW上は8トラックで分解構成して編集・書き出し、付け加えるシステム・セットアップデータでこれらをすべてチャネル10に割り当てる。ちなみにDominoはこのやり方で対応できる。
基本的にパーカッションは同一パターンの繰り返しが多いので、MIDIイベントのコピペで省力化できるが、同一と見せかけて細部が微妙に違っているパターンで罠に引っかかることがないように細心の注意を要する。
制作手順としては、先にこのパーカッション(およびベース)を潰しておけば、後はかなり楽になると思う。