DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

ジャズ演奏論もとい炎上騒動について

自分はジャズ・フリークでもなんでもないので、たまたまYouTubeのおすすめ動画に流れてきたものをつまみ食いして観ただけだったのですが、「天才ピアニストゆうこりん」の素人を小馬鹿にした一連のジャズ演奏論動画は下ネタギャグ演出含めてエンタメとしてはなかなか面白いです。

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敢えて悪ふざけ演出ではあるものの主張していることは至って真面目な正論で、背景にある音楽史の勉強や和声等理論の裏打ち、耳コピ分析・練習の大切さを何度も強調しています。あと付け足すとゆうこりんのピアノ演奏はめちゃ上手い、と思います。

ただこの種のド正論はプロまたはプロを目指している学徒に対しては通用するのでしょうが、気軽にジャズ演奏(なんちゃってジャズ含む)を楽しみたい99%(言い過ぎか?)のアマチュアには馬耳東風というか、そこまで求めるのは少々酷だなと正直感じました。ともすればクラシック音楽を最高格とするようなジャンル差別感が透けても見え、ジャズってこんなに堅苦しくアプローチしないといけないのか、とザ・ジャズ芸術道という体に個人的にはちょっと驚愕したくらいです。

直截かつ下品な露悪的言い回しも手伝ってか案の定炎上してコメント大量削除とかもあったらしいですが、特にフォローしてなかったのでどんなお祭りになってたのかは知らず仕舞い。正論なんだけどなんだか違和感拭えないこのモヤモヤな気分は果たして何だろうか、と気になってたところ、ミートたけし氏がズバリな代弁コメント。

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「音楽如きは好き嫌いで選んでよいのであって正しいか間違ってるかという議論はナンセンス」という一撃*1、あーそういうことだわ、と腑に落ちた。所詮は「心地いいか、格好いいか、キャッチーか」といった聴き手の主観に依存するわけで、和声のヴォイシングが「正しく」ないとかほとんど誰も気にしないだろう。

そうそう、正しいジャズとか正しくないジャズとか型重視を突き詰めると将来的にはパターン学習お得意なAIに踏み潰されるんではないかとも思った次第です。

蛇足

「天才ピアニストゆうこりん」が槍玉に挙げていた "How To Play Jazz Piano" チャンネルがひっそりと幕を閉じられました。

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ゆうこりん(およびその支持者達)からの批判が閉鎖の一因になったのかどうかは全く不明です。お疲れ様の一言。

*1:結論としては「あいつの顔が生理的に嫌い!」の一言でバッサリ切り捨ててた。

結局のところ和声学習が早道ではないかという話

素人ながらも思い浮かんだ鼻歌メロディーに対してどのように和音を当てればよいか、というのは大きな課題の一つであり、この技能を果たしてどのように習得すればいいのかずっと頭を悩ましてきた。

ポピュラー・ジャンルの場合だと誰でも思いつくのはコード進行理論を学べばいいということになり、実際書店に行けばコード進行と名のつく教本は腐るほど目につくのだが、これが如何せん典型的な進行パターンの羅列に過ぎない教科書が多く、無味乾燥な上に背景に潜む理屈がほとんどわからない。

ポピュラーのコード進行論の場合、要はコードありきでその上にベースラインやらメロディーを乗せるという逆転の発想になっているように見え、冒頭述べたような所与のメロディーに対してどのように和音を構成するかという問いにはストレートに答えてくれていない。なので、ありがちなのが定番コード進行からまず出発してメロディーを適当に考えるというアプローチなのだが、これがまぁなんというか手堅くはあるもののありきたりで凡庸、退屈極まりない結果しか出せない。

それで色々と探っていたところ、どうやら音大クラシック畑では常識である和声理論を学習するのがベスト、という事実に今頃になってようやく気付いた。ざっくり言えば、ポピュラーもといジャズのコード理論はクラシックの和声理論を拡張したものなので、基本は和声を勉強するのが王道なのである。さらに言えば、古典的和声はいわゆる対位法から発展している歴史的経緯を踏まえ、音大(および音大受験勉強)では対位法も学ぶのが標準であるが、素人DTMの場合はそこはひとまず置いておくとする。

定番の教科書三選

コード進行論同様に和声の教科書も山のように存在しているものの、自分が調べた範囲では現在のところ以下の3冊が高評価かつ音大教育においても教科書として使用されているようである:

いわゆる藝大和声とか島岡和声と言われている定番中の定番である教科書。全部で3分冊+演習模範解答集からなる大著。長らく日本の音大和声教育で標準テキストの地位を占めてきた。私は音大関係者ではないのではっきりとした統計は不明であるが、YouTubeの動画などを拝見する限りでは今でも教科書として使用され、これで和声を学んだ音大生は少なくないように見受ける。

ただ、この教科書はいくつか問題があるようで、

  • 初版が1964年と半世紀以上も前であるためさすがに記述方法・内容が古過ぎる(途中改訂はあったものの)。書き方がなんだか数学の教科書みたいで堅苦しい。「公理」(要は禁則ルール等のことです)という単語が頻出するのを目にして苦笑。
  • 3分冊で高価。IとIIはともかく、IIIは500ページ近い大作の上に税込7千円弱という専門書にありがちなお財布にやさしくないお値段。
  • 和声の分類が独自記号体系で書かれていて少なくとも国際的には通用しない。例えば転回形は今日では数字付き低音で表すのが海外でも一般的らしいが、この本では転回指数表記(第1転回形ならば右上に"1"を添字表記)となっている。因みに今の東京藝大入試問題ではこの本の表記法はもう使われていないようだった。
  • 専門家のお話によれば、いわゆるIIIの和音が一切取り上げられていないとのこと。古典クラシックではIIIの和音が禁則的扱いを受けていたことに由来するようだが、現代ポピュラーではそのような禁忌は特になく堂々と使われるため不足を生じる。
新しい和声──理論と聴感覚の統合

新しい和声──理論と聴感覚の統合

  • 作者:林達也
  • アルテスパブリッシング
Amazon

上述の藝大和声を乗り越えるべく2015年に出版された最新の教科書。東京藝大では今はこちらの教科書を使用しているという話も聞いたことがあるが真偽は不明。

一冊に凝縮してくれたのは大変ありがたいのだが、Amazonユーザ評によればそのために端折ったところも多く散見され、独習には向いていないようである。要は音大講義テキストとして購入するならともかく独学本としては未完成ということらしい。一方で藝大和声とは違って記法が国際標準に改まっているのはよいと思う。

圧縮された編集内容のせいか、藝大和声を学んでからでないと取り組みにくいという評も見られ、そうであるならば結局のところ藝大和声をやればよいのでは、という結論になってしまう。

2006年出版でこれも比較的新しく、大阪音大の副課教材+独習用として編纂されたとのこと。各巻200ページ程度で上下2巻構成とボリューム的にもちょうどいい塩梅かと思う。

Amazonユーザ評によれば、網羅している内容としては藝大和声とほぼ同じらしいので、藝大和声本が too much という向きにはこちらの方がフィットするのではないかと思われる。私のようなアマチュアもその部類に入るだろう。

大阪音大以外の音大教育でどの程度この教科書が受け入れられているのかは存じ上げないが、少なくともユーザ書評では致命的な評価を受けていないようだったので独習用教材として使用するにあたっての大きな支障は特にないかと思う。

私の結論

ということで、私個人としては「明解和声法」をメイン・テキストとして藝大和声を事典的に参照するというようなアプローチで学んでいきたいと思う。アマレベルとしてはこれで十分だろう*1。今後学習の過程で参考記事をいくつか投稿することも考えてます。

なお、藝大和声本は今すぐ買うかどうかはわからない(躊躇している)が、アマチュアでも事典として常備しておくのは悪くないかもしれない。「新しい和声」は「明解和声法」を一通り修得してから参考書として買う可能性あるがかなり先のことになりそうではある。

あと、YouTube上で和声法や対位法の講義動画がこれまた山のように公開されているので(相変わらずどの分野もレッドオーシャンですな...)、参考にさせてもらった動画は随時共有することにしたい。

*1:逆に作曲科専攻の音大生や音大受験生は藝大和声をIII巻までみっちり仕込んで演習も全て制覇しないと話にならんのでしょうね。

Studio One 6 へメジャー更新

私も愛用している Studio One がついに、というかやっとバージョン6へ更新された。

www.dtmstation.com

しかしよく見ると、今回リリースされた新機能のほとんどはProfessional版でしか利用可能ではないので、すでにProfessional版のバージョン5を使用中のユーザは是非ともアップグレードすればよいと思うが、自分のようにArtist版ユーザだと正直そのままArtist版の状態でバージョン6へアップグレードするメリットはほとんどないのでは、という印象です。

www.presonus.com

Artist版*1のままバージョン6へ移行する価格は6,820円と安価な上に、今回アップグレードではもちろん新機能追加だけではなく、バグ修正やパフォーマンス改善などの見えないところでの改良も多々盛り込まれているはずなので損はないのでしょうが、現時点では個人的にはちょっとインセンティブが足りない。

さりとてProfessional版は自分のようなアマのDTMerには明らかにオーバースペックかつ過剰投資で勿体無いことこの上ないのも事実である(だからこそ昨年購入時に敢えてArtist版を選んだのですが)。

毎回お布施は辛いなぁ...

これはDAWユーザの宿命で、Studio One に限らず2、3年だかに1回巡ってくるメジャー更新の度にアップグレード追加投資を迫られるのは、ユーザとしては結構辛いし面倒だし癪に触る*2

そういう観点からも考えると、Macユーザならば Logic Pro X にしておいた方がよかったかも、という後悔と反省がありますね。

あと今更ながらの指摘だが、Studio One だと一から真っ新の状態で楽曲を制作することになり、これは素人ユーザだとなかなか厳しい環境であって、制作意欲が刺激されない状態に陥る。なので、気がついたら Garage Band を弄っていたりする日々。

*1:円安効果も手伝ってか今回は14,300円に大幅アップ。昨年私が購入した時は税込10,600円と嘘みたいな値段だった。税込価格で約35%の値上げ。

*2:メーカーとしては投資回収の手段を確保したいのは十分理解できるものの。

Prophet-5やMIDI生みの親 Dave J Smith 氏逝去

タイトル通りのニュースが飛び込んできてびっくり。

www.itmedia.co.jp

向こうでは先週既報だった模様。

www.synthtopia.com

72歳だったそうだが現代の感覚ではまだまだ現役でやれそうな年齢で突然の訃報に大変驚きました。

氏はなんと言ってもシンセサイザーの名器中の名器と言って過言ではない Prophet-5 の開発者であり、特に80年代のポピュラー音楽シーンに与えた影響は絶大であったと思う。日本ではYMOが多用していたことでかなり名の知れたシンセだろう。ただ当時非常に高価だったので(80年代で1機170万円だったはず)、たとえ製品名は知っていてもアマチュアにとっては雲の上のような存在であり続けていた。近年氏が立ち上げた新会社 Sequential ブランドで復刻版を出したことは記憶に新しい。

あと忘れてならないはやはりMIDI規格の発案者であるということですかね。MIDI普及はRoland創業者の梯郁太郎氏(2017年逝去)の貢献も大きいけれど。以前書いたそれ関連の記事ではRoland社発案の如くメモってましたがどうも最初のアイデアはSmith氏が論文を出していたようです(上記 Synthtopia 記事より引用):

In 1981, Smith presented a paper at the Audio Engineering Society (AES) convention in New York proposing a USI (Universal Synthesizer Interface), as a technical solution for interconnecting electronic musical instruments. With the input of several other companies, Smith developed MIDI (Musical Instrument Digital Interface), and went on to create the first MIDI synth, the Prophet-600, in December 1982. At the January 1983 NAMM show, MIDI was demonstrated as a new standard, when a Prophet-600 and a Roland Jupiter 6 were connected and performed together.

daw-jones.hatenablog.com

MIDI検定の公式サイトはお悔やみ記事でも出してはどうなんだろうか...

MIDI検定3級と2級1次試験の新出題形式サンプル

試験実施形態が教科書持ち込みOKの疑似オンライン化へ移行するに伴い、3級および2級1次の筆記試験の出題形式・傾向がアップデートされることになり、その見本サンプルが公開中である(3級サンプル / 2級サンプル)。

daw-jones.hatenablog.com

前年までの旧試験との一番大きな相違は、文章穴埋め式から正誤問題中心へと出題形式が変わったところだろう。穴埋め式だと理解度に関係なく教科書の記述をほぼそのまま照合すれば即答できてしまうため、ある程度考えさせる問題にするべく正誤選択式に変更したと思われる。このような正誤選択式出題はITベンダー資格のオンライン試験とよく似ている。

なお、筆記試験の山場とも言えるイベントリスト問題については従来から変更がないようである。イベントリスト問題は教科書持ち込みの影響がない100%応用問題なのである意味当然かもしれない。

蛇足: 1級の合格者発表もあり

8月に実施された第13回MIDI検定1級試験の合格者受験番号が公表され、今年の合格者数は9名であった。

受験者総数がまだ未公表なため、合格率の観点から見た難易度は何とも判断つかないが、合格者数10名未満のパターンは過去3回(2013年、2017年および2020年)あって特に珍しい結果ではない。ただ、昨年の合格者数6名はさすがにコロナ禍における例外とみなすべきだろう。

楽曲ジャンルは久々にポピュラー曲だったらしく、個人的な経験上ポピュラーは割と与し易い印象が強い。出題ジャンルは事前に教えてもらえるわけでもなく当たり外れがあるのは致し方ないが、ジャズが来た場合は和声も複雑になりがちで非常に難度が上がる傾向があるように思う。

Studio One: Limiter2使えるのでLoudMax要らなくなった

小ネタですが、結論はタイトルの通りで、無償Prime版からArtist版に上げて授かったご利益の一つ。

Prime版にはLimiter2が同梱されていないため、音割れ防止などのためのマスター音圧調整がなかなか捗らず苦心惨憺した記憶がある。たとえばStudioOneを援用した際は、一旦ステム出力した後、プラグインが使えるWaveform無償版にインポートし、フリーのLoudMaxを入れて乗り切るという貧者メソッド(苦笑)で工夫していた。

daw-jones.hatenablog.com

Limiter2はUI含めてその使い方は概ねLoudMaxと同じですね。基本的にはCeilingとThresholdのパラメータだけ触ればいい塩梅に音圧調整できる。全体の音圧はCeilingにて-1dBとか-2dBという具合にやや抑え気味に設定し、コンプレッサーのかけ具合はThresholdで調節すればよい。Thresholdを低くし過ぎるとダイナミクスが損なわれて波形がいわゆる海苔状態になってしまうのでほどほどに。

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プロだともうちょっと高級なmaximizerを入れたりするのが常套手段だろうけど、個人的にはもうこれさえあれば十分という印象である。

2021年度MIDI検定3級と2級1次試験はオンライン化へ

今年のMIDI検定3級と2級1次試験が先週9月15日より出願開始となったのだが、遂にと言うべきか、ある意味ではコロナ禍のおかげでやっとこさ一般受験がオンライン化された。

MIDI検定3級・2級1次受験案内

これに伴い、試験監督下ではない在宅受験となることを考慮して、出題傾向が若干変更されるようだ:

尚、令和3年度MIDI検定3級/2級1次試験(一般受験)はオンライン試験(ミュージッククリエイターハンドブック持ち込み可)として実施しますので、試験範囲は変りませんが 出題傾向に一部変更がありますので、9月下旬から10月中旬頃までには模擬試験を掲載し、メールにてお知らせ致します。 事前にご確認下さい。

ITの資格試験などでは、内蔵カメラによる監視や検知ソフトのインストールを必須にするなどしてカンニング防止策を講じた上で在宅オンライン受験を認めているベンダーもあるが、さすがにMIDI検定でそこまでのコストは掛けられないということか、敢えて教科書持ち込みを認めてしまった上での試験となるようです。

ただし詳細を拝見すると、オンライン試験とは言うものの、事前に郵送された解答用紙に筆記具記入したものをスマホで撮影、JPGファイルにしてDropBoxに上げるといういわばオンラインとオフラインの妥協折衷案でかえってややこしい受験形態になっており、この種の操作に慣れてないと戸惑う受験者も少なくないのではなかろうか(例えば、Microsoft Forms を使うなどの工夫で完全オンライン化できなかったのか、と問い詰めたい気分だが...)。

令和3年度MIDI検定3級・2級1次オンライン受験案内

9月下旬から10月中旬頃までには模擬試験を掲載、ということなので、公表された暁には、かつての受験経験者として変更点などを分析・指摘してみたいと思う。