DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

MIDI検定1級演習 2011年課題曲 (3) ドラム基本パターン

以下記事の続き。

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ポピュラー曲の場合、基本はドラム・パーカッションとベースを最初に打ち込んで楽曲の背骨を作るところから手掛け、コードやメロディを後から乗せるアプローチが一般的かと思う。 そういう意味では、昨年2016年課題曲のクラシック風楽曲とは違い、今回はパート別に仕上げていく手順となる。

標準的なドラム譜の表記法

本課題曲の制作規定書にはドラム譜の解釈について一切記載がないため、概ね標準的なドラム譜のルールに従うことになる。しかしドラム譜はシンバルの表記等細かいところでいくつかバリエーションがあるため、若干の類推を働かせる必要が生じる。

本曲の記法に一番近いスタイルの解説としては、京都精華大の下記記事を参照:

ドラム譜の読み方

追加の補足事項として、

  • 音部記号は、本曲ではヘ音記号となっている。
  • クラッシュ・シンバルは、本曲ではD3の位置に丸囲みのXで表記してある。ノートナンバー49もしくは57で対応するよう指示がある。
  • スネアと同一ピッチ上にX表記はサイド・スティックである。なぜか制作規定書に指定はないが、通常はノートナンバー37を使用することになる。
  • 各タムの五線譜上ピッチ位置が一般的な表記法と若干相違する。

以上まとめると、本曲の記譜ルールは下図の通りとなる(数字はGM配列のノートナンバー)。

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GM準拠配列によるノートナンバーの指定

ドラムの音色に関しては、制作規定書に音色マップ(各楽器音色とノートナンバーの対応定義)が記載されており、これに従う必要がある。要するに、GM準拠配列を前提としてMIDIデータを打ち込む。

なお、タムは4種類定義されており、高い方から順にノートナンバー47、45、43および41を使用するよう指定してあるが、本曲含めて通常は3種類(ハイ、ローおよびフロア)しか使わないので、45、43と41の3つで対応すればよい。ちなみに Studio One 内蔵音源の Presence XT 搭載ドラム音源は4種類に対応可能である。この点は音源によってまちまちなため、使う前に仕様を確認するなど注意を要する(GM準拠ではなく独自配列のものも少なくない)。

フィルインとソロ演奏部分の対処

これについては次回に触れる。

最終的な音色加工について

エフェクターの追加プラグインを使えない Studio One 3.5 Prime(以下S3)では、単独のドラム・トラックだと線が細くて他パートに埋没する傾向があるため、音色を重ねる等一工夫加える必要がある。

労力最小限で最大の効果を発揮する対処法としては、S3からドラム・トラックをオーディオに書き出し、これを Tracktion 6 にてエフェクト加工後*1、再びS3の別トラックに戻す。これを元のMIDIトラックと同時再生すると適度な厚みが加わり、多少なりとも音圧が補強される効果を見込める。

*1:さしあたりエンハンサーとLoudMax等コンプレッサー系統を入れてキック中心に持ち上げる。

MIDI検定1級演習 2011年課題曲 (2) 下準備

MIDI検定1級課題曲演習の続き。今回はMIDI打ち込み前の下準備について。使用DAW例は Studio One 3.5 Prime版(以下S3)とする。

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マーカーとアレンジャー・トラックの設定

2級実技と異なり、1級課題曲はそれなりに長い尺の完成品である。例えば2011年課題曲については、全部で88小節から構成される。

これぐらいの規模になると、MIDI打ち込み着手前には、節目となる箇所へ目印を入れて楽曲の骨格を作り、データ作成時に迷子にならないよう対策しておく必要がある。これは絵画で言えばいわば補助線のようなもので、初級者でも常識の範疇とは思うが、一応基本の基本として認識しておく。

具体的には、譜面記載のリハーサル・マークとページをあらかじめすべて入れる。これは最低限度の目印で、S3ではマーカー・トラックに旗を立てて区分けする*1

さらに、曲調を示す構成注記をアレンジャー・トラックに入れるとよりわかりやすいと思う。2011年課題曲は、Fast Rock、Bossa Nova および Rock の3部構成となっている。この構成にしたがって色分けでもしておくとよい。ちなみにアレンジャー・トラック機能は、つい先月のメンテナンス・アップデートでPrime版でも利用可能になった。

下図は2011年課題曲の場合の一例である。リハーサル・マークをアレンジャー・トラックに入れて色分けしてもよいと思うが、その辺はお好み次第である。なお、譜面照合上2小節目からMIDIデータを入れて行く。1小節目はシステム・セットアップ用に確保されているので空白とする(Studio One にはまったく無関係)。

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テンポ・トラック

1級課題曲はしばしば曲中でのテンポ変更を伴う。これも忘れないうちにあらかじめ入力しておいた方がよいだろう(上例最下段のテンポ・トラック参照)。

2011年課題曲には含まれないが、もし拍子の変更(変拍子)がある場合は、同様に事前入力しておくべきと思われる。

*1:マーカーはSMFにメタイベントとして書き出される。

ステップ・クリップ (Tracktion 6) によるドラム打ち込み

Tracktion 6 で強化されたステップ・クリップ機能を用いてドラム・パートのMIDI打ち込みを効率化する方法について備忘録的にまとめる。Tracktion独特なUIのせいもあって、ちょっとしたコツが要るため、今書き留めておかないと私自身忘れかねない。

これは下記記事の続きでもあるが、特にMIDI検定実技に限らぬtipsだと思うので、別出しで書いておきたい。

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なお、公式チュートリアルとしては下記動画を参照されたい。

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チャネル割り当て

ステップ・クリップ内の各行の楽器の割り当てについては、標準的なドラム譜(次回触れる)の音符の高低順に合わせて上下順を設定すると、楽譜と照合しやすくなって入力ミスを回避できる。これはピアノロール入力に比べた場合の利点の一つであろう。チャネルの増設は、クリップのプロパティから"Add Channel" を押下する。

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当然ながら各チャネルごとに、発音させるノートナンバーを定義してやる(下図参照)。どのキーに何の楽器を割り当てているかは音源次第であるが、少なくともMIDI検定実技の場合は、GM準拠配列をサポートしている音源を使う必要がある。

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設定保存とその呼び出し

上述のチャネル設定は、ユーザ定義プリセットとして保存し、後から再利用できるようにしておく。下図の通り、クリップのプロパティ右下より "Create Preset" を押下することで保存可能であるが、その際、コンテキスト・メニューより "Exclude patterns" を選ぶと、パターン(中身)なしの入力テンプレを作成できる。

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保存したプリセットは、左側ペインの Presets > Step Clips より保存名一覧を表示の上で、該当するファイルをターゲットのトラックへドラッグして挿入する。

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クリップの長さの調整

各ステップ・クリップに左下にはセクション番号が自動的に付与されており(デフォルトでは初期値の"1"が入っている)、これをクリックすると、下部プロパティにクリップ長の設定項目が表示される。

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肝となるのは、グリッド縦軸の刻み幅となる "Step Length" (ステップ長)と、クリップ中の総ステップ数を指定する "Number of Steps" の2つである。この2つの組み合わせでクリップの長さを決定する。

ここで "beat"すなわち一拍は四分音符であることを念頭に置く。上例では "1/4 beat" となっているので、この場合は各ステップが16分音符であり、ステップ数は16であるから、このクリップはちょうど1小節分の長さを構成する(拍子記号が4/4の場合)。

仮に2小節以上等もっと長いステップ数を定義した場合は、パラメータ編集後にクリップの右上矢印をドラッグして引き延ばす。

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ベロシティの編集

ベロシティの編集については、クリップのチャネル表示列上の V/G (Velocity/Gate Time) 表示編集モードをオン(白から黄色に反転)にした上で、編集対象となるチャネルを選択状態にし、下部ペインにてバーの長さをドラッグ修正する。

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使えそうだが問題点も

以前からわかっていたことではあるが、ここでは Trackion のMIDI編集UIの使いにくさについて改めて指摘しておく。

この1週間に試してみて、予想外に入力が捗らないことに気づく。要するに、グリッドが色分けや線の太さで拍子区分けされていないので非常に見辛いのである。上に貼り付けた2、3のスクリーンショットからもその一端は窺えると思う。

また、チャネル名表示に関しても、表示非表示がころころと変わってちょっとストレスフルである。

最新版のWaveformでは、MIDI編集画面に関しては Studio One 並みにUIが改善されているようだが、ステップ・クリップに関してはそのままのようだ(下記チュートリアル動画参照)。

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こうした残念な事情もあって、私は結局ドラムのMIDI打ち込み自体は Studio One に戻すことにした。

実は Tracktion 6 上で使用した音源 (MT Power Drum Kit 2) のノートナンバー割り当てで若干支障があったことも関係しているのだが、これはMIDI検定固有の事情につき別途稿を改めるとする。

 

MIDI検定1級演習 2011年課題曲 (1) 概観

今月よりMIDI検定1級課題曲の演習に戻ることとしたい。昨年2016年度の課題曲演習以来久しぶりの再開となる。

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演習題材

今回は2011年度(第2回)の課題曲を取り上げる。実は本曲の1ページ目のみサンプルとして公式ガイドブック p.245 に掲載されていた関係で、過去にお試し演習をやってみたのだが、その続きを完成させる意図を含む。

2016年度が本格的なクラシック調だったのに対して、こちらは正反対とでも言うべきロック風楽曲で、リズム・セクションもがっつり盛り込まれている。

スコア概観

上述の通り、ロック風の典型的なポピュラー楽曲なので、表現の主軸がギターとドラム等パーカッションとなり、管弦楽クラシックとは全然異なる打ち込みテクニックを要求される。

分量

パート数18および小節数88で、A3用紙10ページから構成される。単純にパート数 X 小節数で測れば2016年課題曲の3倍弱のボリュームとなり気圧されるほどだが、各パートとも全休符が多く、また同一パターンの繰り返しが少なくないので、実質的には2倍程度という感じである。

1級課題曲の常として、クラシック楽曲は音数少ないが、ポピュラーはパート数含めてボリュームが増える傾向にある。ポピュラー曲の場合、本番では夏季休暇スケジュールをうまく調整してまとまった作業日を確保しないと物理的に対応できない懸念がある(いくらなんでも徹夜は避けたいかと)。

転調とテンポ変更

テンポ変更と合わせて2箇所転調がある。DAWでのデータ編集上忘れずに対応すべきはテンポ変更の方である(テンポ・トラックの編集)。Studio One 3.5 Prime版(以下S3)でのテンポ編集値は、書き出したSMFにメタイベントとして反映される。

同一パートでの途中音色変更

本曲は一部のパート(エレキ、アコギとキーボード1&2の4トラック)につき曲中での音色変更指定がある。SMF上は該当箇所にてPC(プログラム・チェンジ)を挿入する必要がある。

一般的にDAWでは、PC対応音源(マルチチャネル音源など)を使用しない場合、音色に応じて追加のトラックを設定するが、1次審査用のSMFと2次審査用のSMFの2バージョンを制作することになる*1

装飾音符のルール

2011年の規定書によれば、装飾音は「前打音をジャストクオンタイズとして、それに続く実音を四分音符=480の分解能において30ティック後ろに配置」せよとの指示がある*2。このルールは2016年課題曲のそれと異なり、近年変更されたと見受けられる。因みに2016年の規定では、装飾音の入力タイミングは評価対象外である*3

トリルとグリッサンド

エレキとストリングズにはトリル表現がやや多い。トリルは2016年課題曲で演習済みである。

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キーボードはグリッサンドを多用しており、いわゆる鍵盤を手で撫でるような奏法をシミュレートすることになるが、キーボード演奏に慣れている人は実演をリアルタイム記録でMIDI化した方が臨場感が出ると思う(私は無理ですが)。

フルートにもグリッサンドが一箇所あるが、管楽器はピッチベンド・チェンジで対応できる。

なお、グリッサンドのタイミングは1次審査の評価対象外となっているため、受験者側である程度自由に表現可能である。

ギターとストローク表現

アコギは5和音とか6和音の連打が頻出している。これは明らかにストローク(ストラム)奏法を前提としている旨解釈すべきだろう。

ただし、規定書によれば、ストローク部分は1次審査ではクオンタイズされたデータで作成せよとの指示があるため、1次審査用のSMFでは譜面通りの和音のままデータを入れることになる。

これとは別に2次審査対応でストローク表現を加えることになるが、MIDIデータで表現すべきか、音源対応がふさわしいか、は実際に再生確認するまでなんとも言えない。

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ドラムのアドリブ

ドラムはそこかしこにフィルインとソロ演奏の指定がある(音符の記載はない)。これは1次審査の評価対象外で、受験者のアドリブに任されている。最も安直な対処法としては、ドラム音源のプリセット・パターンを流用する方法が考えられる*4。あるいは自動作曲ツールを援用してもよいかもしれない。この辺はドラム演奏の素養がないと自分で真っ当なパターンを考えるのは難しいので、無理にゼロから打ち込む必要はないと思う。

ドラムは本曲の中核を構成し、終始鳴りっぱなしで打ち込みの分量が多いので、S3のピアノロール入力では手間がかかって入力ミスを誘発しやすい。Tracktion 6(以下T6)のステップ・クリップを使って効率よく制作した方が得策だと思われる。ドラムだけはどうしてもT6での制作がベターであるため、これをオーディオ化してS3に逆輸入というワークフローなってしまうが、これについてはまた後日追記したい。

音色については、規定書にてGM音源のノートナンバーが指定されている(Snare = 38 など)。したがって、ドラム音源はGM準拠配列のものを使った方が無難である。

なおドラム譜面は、2級2次実技のように各音符と音色ノートナンバーのマッピング情報が一切与えられないため(これはちょっと意外ではあった)、標準的なドラム譜の解釈通りに打ち込むこととなる。

評価対象外のパーカション

パーカッションは1次審査の評価対象外となっている*5。おそらく、GM準拠配列以外の音源音色を自由に使ってよいとの趣旨だと思う。規定書では一応参考までにGM音源のノートナンバーを提示してある(Guiro Short = 73 など)。

同一パターンの繰り返しでシーミレ(simile)指示が頻出しているため、前小節パターンのコピペで対応すれば結構早く完了してしまう。たぶん本曲の打ち込みでは一番簡単なパートだと思ので、なんなら一番最初に片付けてしまってよいかもしれない。ドラムほど複雑ではないからS3のピアノロール入力で十分対処可能である。

*1:これ以外の理由もいくつかあるため、どのみち1次審査用のSMFは2次審査用の編集データと分ける必要がある。そもそも2次審査用にはSMFを作成提出する義務はない。

*2:つまり装飾音一つを64分音符扱いにする。

*3:装飾音としてのデータがあるかどうかのみチェックされる。実音(親音)をジャストクオンタイズにして前打音をその直前に追加するなど受験者の裁量に任されるようになった。

*4:MIDIデータを書き出せるものであること。したがって、オーディオ・ループ素材のはめ込みは無理がある。

*5:ピッチとタイミングについては評価されないということ。しかしデータが入力されているかどうかは判定されるはずなので、1次審査でも完全にMIDIデータをオミットすることはできない(オーディオ・ループ素材で誤魔化すことはできない)。

Magentaによるメロディ生成 (4) コード進行の活用

前回記事の続編、というかおまけ。前回は単純に出だしの単音だけ与えてメロディを生成させてみたが、今回はコード進行の制約を与えるモデルを試用してみる。

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使用するモデル

今回は、Melody RNN ではなく、Improv RNN を用いる。

このモデルは、伴奏のコード進行をモチーフとして与えると、そのコード進行に合わせたメロディを生成する。プロアマ問わず、コード進行をいわば補助輪として楽曲制作するケースは非常に多いだろうから、生成モデルとしてはおそらくこちらの方が実用価値が高いと思われる。

生成用コマンドの例

DockerからMagenta起動後、以下のようなimprov_rnn_generateコマンドを投入する(詳細は公式ページを参照)。

improv_rnn_generate \
--config=chord_pitches_improv \
--bundle_file=/magenta-models/chord_pitches_improv.mag \
--output_dir=/tmp/improv_rnn/generated \
--num_outputs=10 \
--primer_melody="[60]" \
--backing_chords="C G Am F C G Am F" \
--render_chords

コマンド・オプションについては、前回見たmelody_rnn_generateコマンドのそれとほぼ同じであるが、本コマンド特有のものとしては、

  • backing_chords: モチーフとして与えるコード進行はこれである。デフォルトでは1小節ステップでコード進行を文字列として記述する(ステップの長さは変えられるが詳細は割愛)。本例では、C/G/Am/F のコード進行を2回繰り返して合計8小節となる。
  • render_chords: 上記 backing_chords で与えた伴奏コードが生成結果のMIDIデータ(SMF)に追加される(後述)。

生成MIDIデータの中身

生成結果のSMFは、メロディと伴奏コード進行の2トラックから構成される。このうちの後者は、ユーザがコマンド・オプションから与えたコード進行そのものである。生成ファイルの一つをDominoで開いてみると、以下のようなMIDIデータが観察される。

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生成メロディ

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コード進行

想定される使い方

音楽的に心地よく美しいとされるコード進行は概ね決まっており、またコード進行それ自体には著作権はないため、そのようなモチーフをどこかから参照してMagentaに与えてみればよい。たとえば、下記サイトは参照先の一つである。

chords-map.net

すると、それなりのメロディ候補を無数に生成してくれる。あとは取捨選択の上で、ループ素材なども駆使してリズムに工夫を重ねれば、比較的短時間で一曲制作できてしまうのではないか。

先進的なコード進行ヘルパーとしては、Waveform の Pattern Generator などが代表例だが、そのような高級ツールが手元になくとも、Magentaで相当程度ニーズは満たされると思う。

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Amper Music の使用感

以前書き留めた下記記事の続きのようなものではあるが、ちょっと気になっていた自動作曲サービスの Amper Music を触ってみての雑感を軽く書いておきたい。

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なお、利用方法についてはすでに方々で紹介記事が書かれているので、この場でさらに屋上屋を架すような真似は止めておく。

個人的な使用感などを手短にまとめると、以下の通り:

  • 曲長については、Simpleモードでは30秒固定で融通が利かない。それ以上の長さの楽曲生成はProモード*1を使う。β版の現状ではProモードも無料試用可能だが、いずれ有償化必至と思われる。
  • 生成される楽曲をいくつか聴いてみると、コード進行ありきの印象が強い。主旋律がなくバッキングのみという感じの曲ばかりのように思う。裏返せば、単なるコード進行生成機と言えなくもない。
  • 生成結果はMP3またはWAVでしか落とせない。案の定MIDIはサポート外なので、自分のDAWに取り込んで独自のアレンジ加工は難しい。あくまでオーディオ素材のみ。
  • 生成結果をそのまま使うのであれば、簡単な劇伴または動画BGM用という印象。

追記 (2018-10-13)

2018年10月25日をもって上記のβ版ウェブサービスは終了し、法人市場ビジネスに特化する旨の発表があった。広告業界などの需要を考えるとその方が賢明だろうとは思う。一般ユーザ向けウェブサービスだと、DAWまたはプラグインソフトとの不利な競合が避けられず、ビジネスとしては難しいのではないか。

楽曲生成という目的であれば、DAWの場合はループ素材を組み合わせて貼り付けるなどしてそれなりの成果物はすぐに出来上がる時代なので、わざわざAI云々を持ち出すまでもない状況である。要はiOSGarageBandのお手軽さを越えることができるかどうか。

*1:一般的なDAWのオーディオ編集UI同様の操作で生成断片を繋ぎ合わせる。

Magentaによるメロディ生成 (3) MIDIデータ生成

随分と間が空いてしまったが、前回の環境構築に引き続き、MIDIデータの生成を試してみる(かなりマニアックです)。

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プリセットの学習済みデータ

有難いことに、Magentaには数千曲のMIDIデータを使って学習したモデル一式が添付されており、ユーザ独自のデータを学習させないのであれば、これらの学習済みモデルをそのまま流用することも可能である。

学習済みのモデルとデータ一式は Bundle File (.magファイル)と呼ばれており、デフォルトの環境では/magenta-modelsディレクトリの下にあらかじめいくつか格納されている(下図参照)。特にattention.magbasic_rnn.mag、およびlookback_rnn.magの3種が代表的なものである。

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生成モデル

生成モデルに応じていくつかのコマンドが用意されている。この中で実行例として最も頻繁に引用されるモデルは Melody RNN だと思う。今回もこのモデル・コマンドを使ってみる。他にも興味深いものとしては、コード進行ベースの学習モデルである Improv RNN などもあるが、後々試すこととしたい。

DockerによるMagentaの実行

前回記事でも触れた通り、ターミナルから以下のコマンド一行でMagentaの環境を立ち上げてLinuxの配下に入る。起動コマンドのオプション等詳細については、公式サイトの入門ページか、もしくはQiitaの記事などを参照されたい。

docker run -it -p 6006:6006 -v /tmp/magenta:/magenta-data tensorflow/magenta

ここで特に重要なのは-v(ボリューム)オプションで、ホスト側(Macなど)の/tmp/magentaディレクトリをDocker上のLinux環境下/magenta-dataディレクトリに同期(マウント)する。これで両者間でのデータのやりとりが可能となる。そうしないと、せっかく生成したMIDIデータがコンテナ終了後に消えてしまい、保存再生することができない。

MIDI生成コマンドとパラメータ

上記 Melody RNN モデルを使い、メロディのMIDIデータを生成するためには、生成コマンドmelody_rnn_generateを実行するだけでよい。蛇足ながらこのコマンドは、上述の通りにDockerからMagentaの環境を立ち上げた状態のLinux上で投入する。

melody_rnn_generate \
--config=lookback_rnn \
--bundle_file=/magenta-models/lookback_rnn.mag \
--output_dir=/magenta-data/lookback_rnn/generated \
--num_outputs=10 \
--num_steps=128 \
--primer_melody="[60]"

本コマンド詳細については、以下の公式ページより"Generate a melody"の節を参照。

github.com

コマンドに与えるパラメータに関しては、以下のQiita記事なども参考になるかと思う(前回に引き続いて再掲)。ただし、Magentaのバージョン改訂に伴い、生成コマンド自体は古くなっているので読み換える必要がある(いちいち都度ビルドしたりPythonスクリプトを指定実行するような煩わしさがなくなった)。

qiita.com

qiita.com

パラメータについて若干補足しておくと、

  • bundle_file: 本例では上述の学習済みプリセット・データを指定する。今回はやらないが、ユーザ独自の学習データを使う場合はその際に作成した Bundle File を指定してもよい。
  • output_dir: 本例の/magenta-dataディレクトリは、Magenta起動時のDockerコマンドでボリューム指定した場所と同じにする。サブディレクトリのlookback_rnn/generatedは自動的に作成される。生成されたMIDIデータ(SMF)はこのサブディレクトリに保存される。
  • primer_melody: 出だしのメロディを指定できる。ノート番号はMIDI規格の通りに中央ドを60とし、16分音符単位のステップ・シーケンスでリスト表記する。SMFを与えることも可能。本例ではC3単音のみ指定。したがって、生成データはすべてC3からスタートすることになる。

生成ファイル

本例ではパラメータ指定の通りに10個の生成結果(SMF)を所定のディレクトリに書き出す(下図参照)。DockerにてMagenta立ち上げ時のボリューム指定により、これらはすべてMac上の/tmp/magentaディレクトリに保存され、Dockerセッション終了後もそのまま消えないで残るが、念のために$HOME/Documents等ユーザ領域へコピーしておいた方がよいだろう。

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生成MIDIデータの中身

生成結果の一つをDominoで開いてみると、以下のようなMIDIデータが観察される。

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見ての通り、現バージョンではベロシティは表現手段として使われていない。学習結果を反映している手前、一応それなりのメロディにはなっており、まったくランダムなデタラメという感じではない。ただし生成結果が全部使い物になるというわけでもなく、10個生成したらこの中から使えそうなものだけ取捨選択するという運用になろう。

生成メロディのままではまともな楽曲として成立しないので、これをChordanaに入力し、伴奏アレンジを加えれば結構面白い制作物ができるかもしれない。なお、現状ChordanaはSMFをインポートできないので、大体ざっくりした感じでいいからキーボード手入力か鼻歌で入れてみるとよい。Chordanaとのコラボについてはまた後日実験してみたいと思う。