DAW悪戦苦闘記

DAWやMIDIを通じてちまちまとDTMを楽しむ記録+MIDI検定1級到達記

最先端UIへ進化中のWaveform

久々の Tracktion Waveform 小ネタ。

27日まで目下開催中である楽器音響関連の国際見本市 NAMM 2019 にて Waveform 10 のプロトタイプが展示披露されているようで、次期バージョン新機能の一端を垣間見ることができる。

Waveform は、制作ワークフローの効率化に関してクリエーター目線で徹底的に考え抜く思想で貫かれており、そのUIは数あるDAWの中でも正に最先端であろうと思う。それがかえってCubaseなどのオーソドックスなUIに慣れたユーザにとっては奇異に映る場合もあるかもしれないが、多数の付属プラグインやバンドルされるシンセのユニークさを含め、他人とは違った制作環境を望むユーザには最強DAWの一つではないかと思う。上級版DAWを選定中である私自身も、バージョン10で極端な高額にならない限りは導入していいかも、と傾きつつある*1

あとバージョン10では、AutoTune と Melodyne の両方を組み込むようで、この辺の編集機能を多用したいユーザにとっては垂涎の的となるのではなかろうか。ここは Melodyne をバンドルする Studio One Pro版と競合するところである。 

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*1:現行のバージョン9では全部込み Ultimate Pack であっても税込 ¥29,480 であり、Logic Pro X ¥23,800 と大差ない。ただし、NAMM Show の James Woodburn 氏インタビューによると、次期バージョンでは全部込みで$499という発言がある。

動き出した MIDI 2.0 への規格改訂

国際的な展開としてMIDI規格がバージョン2.0へと改訂に動き出したとの下記記事が結構バズっていたので、備忘録がてら少し触れておきたい。具体的な改訂領域については下記記事を参照していただくとして本記事での繰り返しはなるべく避ける。

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実はMIDI規格の拡張・改訂については昨年10月の楽器フェアでAMEIのアナウンスがあったので個人的には既知ではあったのだが、今年は The 2019 NAMM Show のタイミングに合わせてAMEIとMMAの共同発表となった模様である。

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まだまだ詳細検討やプロトタイピングの段階であるため、一般市場に公開されて楽器やDAWなどに実装されるのは数年先になると思われる。また下位互換性は維持される方向なので、現行 MIDI 1.0 の規格内容が完全に消滅するわけではないことには留意する必要があろう。

MIDI検定受験を考えておられる方は規格改訂の端境期に入る前にさっさと受験・合格してしまうことを目指す方がよいと思う。何年先になるかは不明だが、今後は公式ガイドブックの改訂と、それに伴う試験内容の変更が当然想定されるからだ。ベロシティー等の値レンジ拡張(現行の0〜127から粒度が細かくかつ拡張される模様)やノート単位のコントロール・チェンジ適用などについては2級2次実技試験への影響も考えられる。

GarageBand: キー設定/転調とループ素材

GarageBand(または Logic Pro X)付属のループ素材は、種類がとても豊富な上に音質も良いので、やろうと思えばループ素材の組み合わせだけでいくらでも楽曲を制作することができるほどだが、素材のクオリティに加えて特筆すべきは、楽曲のキー設定に合わせて自動転調する機能が備わっていることである。これは非常に使い勝手がよくて重宝すると思う。

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下例の通りに楽曲のキーを設定しておけば、各ループ素材もそれに合わせて試聴時と貼り付け時両方ともに自動転調してくれるため*1、いちいち個別の素材・リージョンごとに転調編集を適用する手間が省略できる。たとえば Studio One の場合は、楽曲全体のキー設定であるとかトランスポーズ・トラックという概念と機能がなく、各イベントごとの調整になるため、編集がいささか面倒である*2

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ループ素材の転調は、たとえ楽曲途中で転調が入る場合でも自動的に対応してくれる。GarageBandの場合、トランポーズ・トラックで途中の転調を適用すると、そのタイミングに合わせてループ素材のリージョン途中から自動的に転調してくれる。

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こうしたループ素材の応用力という点では GarageBand または Logic Pro X は他のDAWに比べて図抜けた使い勝手の良さがあり、DAW選定の際の重要な比較材料になるのではないかと思う*3

*1:メジャーとマイナーといったスケールの違いについては素材の検索時に選り分けることができる。

*2:Studio One のループ素材はファイル名の一部にキー設定が書かれており、それを手掛かりとして個別にトランスポーズすることになる。複数イベントを選択しての一括編集はもちろん可能ではあるが。

*3:プロならともかくも私のようなド素人だと一からオリジナルのMIDI打ち込みは正直ハードルが高いので、ループ素材のモチーフに依存する度合いが高い。プロであってもギターリフなどの生演奏はループ素材を使った方が手っ取り早いことが多いと思う。

DAW国内シェア推計調査

昨年12月月間に実施された「DTMステーション」によるDAW国内シェア推計調査の最新結果が公表され、大変興味深い。個人的には半ば予想通りというか、さほど意外性がないように思える側面もある。

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Studio One シェア拡大の最大要因は、上記記事中で「Studio OneとAbilityで共通して言えるのは、SONARからの移行組をうまく捕まえて伸びた、という点でしょう」と指摘されているように、旧SONARユーザの獲得で漁夫の利を得たことにあるのは明白である。ただし、Cubase 猛追というのは個人的な直感では実態以上に誇張されている印象がある。YAMAHA傘下ということも考慮すれば、Cubase はたぶん実際には本調査以上のシャアを持っているであろうと想像する。

一方私が全然知らなかったのは、海外と比較した場合の Ableton LiveFL Studio の国内シェアの低さである(あくまでアンケート推計ですが):

国内にいる外国人の方々や海外にいる日本人の方々から、TwitterFacebookで多く指摘されたのは、「日本はAbleton Liveのシェアが信じられないほど低い!」、「なんでFL Studioのシェアがこんなに低いんだ?」といったこと。確かに、海外の調査結果などを見ると、Ableton LiveFL Studioはかなりシェアが高いようですから、日本のDTM環境はやや特殊なのかもしれませんね。 

これは海外市場と比べての音楽志向の違いが多分に影響している可能性があるかもしれないが、やはり販売面含めての日本語サポートの有無が大きな一因ではないかと思われる。

その他顕著なところでは、Logic Pro X の安定したシェア推移はMacユーザにとっては安心材料と言えるだろう。選定に迷っているMacユーザが最初に選ぶべき上位DAWとしては私も個人的には Logic Pro X をオススメする(GarageBandからの移行が容易で一番無難と言える)。

あと、上記記事中でも指摘されているように、Pro Tools と Digital Performer はもはや業務用ソフトという位置付けがはっきりしているように感じる。Pro Tools がいまだにプロのスタジオ現場でデファクトに留まっている理由は正直私には謎である。Digital Performer はこれまた「DTMステーション」の取材記事ではあったが、カラオケ制作現場の打ち込みツールとして非常に評価が高いらしい。

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追記 (2019-01-20)

Sleepfreaksでも同種のアンケート調査をやっていたようで、下記記事にて結果が発表されていた。こちらの方が標本数が多く、また実態をよりよく近似している印象を受ける。さらに併用率まで出しているのはユニークな点である。

sleepfreaks-dtm.com

Cubaseが最大シェアである点は両アンケート共に同じであるが、こちらの方は Logic Pro X の健闘ぶりが際立つ。しかしクリエイティブ系でMacユーザが多いことを考えるとさほど違和感はないと思う。Studio One は、DTM Station の調査ほど偏りはないものの、Logic Pro X と僅差で3位とやはりユーザ増加傾向が強く現れている。今年あたりでいよいよ Logic Pro X を追い抜く可能性もあろう。

今年に本ブログで取り上げたいトピックなど

年も改まったところで新年の抱負というほどのものではないが、本ブログで新たに追求したい課題や取り上げたいトピックなどについて展望を述べておくことにしたい。半分以上は自分自身に向けてのTo-Doリストみたいなものではあるが。

DSP (デジタル信号処理) の深掘り

DAW上でオーディオ加工処理やプラグイン・シンセを使った音色編集などをいろいろと試行錯誤しているうちに、その根底にあるデジタル信号処理の理論を基本からきっちり学んでみたいという欲求が日々大きくなってきた。

そんなところにちょうど昨年末からCourseraで "Audio Signal Processing for Music Appications" というドンピシャリな講座が開講したので早速受講を始めたところである。

www.coursera.org

フーリエ解析などやや数学的なハードルが高そうな課題もあるのだが、Andrew Ng 先生のかの有名な "Machine Learning" 講座は昨年になんとか走破できたので、たぶんある程度時間をかければ完走できるのではないかと思う。Pythonプログラミング実習も盛り込んであり、非常に面白そうである。受講記録がてら本ブログで詳しくレポートしてみたいと思う。

Magentaをもっと試しまくる

Magentaに関しては2017年夏にDockerコンテナを使ってMac上で軽く実験してみたりもしたが、その後はまったくフォローしておらずご無沙汰の状態であった。

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しかしこの世界(ディープラーニングなどの楽曲生成への応用)も日進月歩でそれ以来かなり進化しているように見受けるので、さらに興味を持って常時ウォッチしていこうかと思う。私は特にこの分野の研究者というわけではないが、ユーザとしてどういった使い方ができるか非常に興味は尽きないし、将来的なDAW新機能の最先端が垣間見える期待もある。

Mac新調と新DAWの導入

本当は昨秋あたりにMacの新調を考えていたにもかかわらず食指が動かずに結局先送りという結果になったのだが、今年はいよいよ限界だろうと思い、夏だか秋あたりを念頭に最新モデルへ移行する腹づもりでいる。そのタイミングで手元のDAWもやっと上級モデルにアップグレードすることになる。

上級版DAWの候補としては、何度か言及しているように、私の中では Studio One 4 Pro 版か、Logic Pro X、または Waveform の3択である。実はブログのネタ的には Waveform が一番希少価値がある。というのも、Studio One や Logic Pro X は日本でもメジャーなDAWの一つなのでそれらを取り上げている他ブログが非常に多いからだ。いささか本末転倒かもしれないが。

MIDI検定2級練習曲(2019年2月期)を見る

師走の慌ただしさでつい更新が滞ってしまったが、冬季休暇に入ったところで年末恒例で公開されるMIDI検定2級実技試験練習曲をちょっとレビューしてみたい。

1級到達後はMIDI検定ネタはもう要らないかな、と思ってはいたものの、個人的なブラッシュアップも兼ねつつ、興味本位と多少の懐かしさを交えて簡単な解説を書こうと思う。今回受験される方々のお役に立てれば幸いである。

MIDI検定2級2次検定試験 練習曲スコア及びmp3掲載

練習曲 No.1

今回の練習曲セット中ではもっとも標準的なレベルの楽曲だと思われる。

定番のCC#1とCC#11が盛り込まれている上に、ベロシティに基づく強弱表現、ピッチベンドを使ったスクープやハンマリング・オン等お馴染み必出テクニックも全部入っている。

ある意味では2級実技のメルクマール的楽曲と考えられるので、受験を検討される方は本曲を難なくこなせるか否かで今回の実技受験に進むかどうかを判断されるとよいと思う。要するに最低限度本曲レベルは完璧に制作できる必要がある。

なお、シンセリードとベースのベンドレンジが"12"指定となっている点は要注意である。協会提供のSMFテンプレではベンドレンジのデフォルト値は"2"なので、両トラックのセットアップ値は修正した上で、ピッチベンド未使用の他トラックからはベンドレンジ設定のメッセージを削除しておく。

練習曲 No.2

途中で転調が入るのでやや難しい。C maj から Eb maj への転調だが、転調後にやたらと臨時記号ナチュラルが出てくるのでノートミスのリスクが飛躍的に高まる。打ち込み地獄の楽曲と言えるかもしれない。本番でこの手のパターンが出てきたら、ノートミスがないかどうかの見直しを繰り返しやる必要があろう。

セットアップデータにおいてどのトラックもベンドレンジの指定が記載されていないということは、デフォルト値の"2"を使うということになる(ピッチベンドを使用するトラック、すなわちフルートとベースに対して)。

練習曲 No.3

今回の練習曲セット中では一番難度が高いと思う。

まず、拍子が5/4でスタートすることに留意する。それが途中で3/4に変わるところも要注意である。こういう二重の意味で変拍子の楽曲は私が知る限りではおそらく今回が初出ではなかろうか。

さらにややこしいことに、途中で2回転調する。すなわち、G maj > Bb maj > C maj と変わるが、最後の C maj 転調は拍子の変更と同タイミングである。練習曲No.2と合わせて考えるに、おそらく今回の本番課題曲では間違いなく転調が盛り込まれていると考えられる。

ベンドレンジに関しては練習曲No.2と同様である。

練習曲 No.4

2級にしては珍しく和風な楽曲だが、さほど高度なテクニックが要求されるわけでもなく、割と標準に近いレベルだと思う。音数が少ないからむしろ楽かもしれない。

本曲でまず肝となるのは、尺八のパートで多用されているピッチベンドを使ったポルタメント表現である。ベンドの上げ下げタイミングを音符のタイミングに合わせて正確に打ち込む必要があり、神経を使うところである。

変わり種では太鼓の音色 (PC=117) をパーカッションとして使用している点が目を引くが、これはMIDIのドラム・チャネルとしてではなく通常音色チャネルとして扱えばよいので、なんら難しくはない(補足事項にも記載あり)。

なお、今回は上記太鼓とドラムのデュレーション(ゲートタイム)を全ノート 10 tick で揃える旨の規定があるので、これを守らないと減点対象となる。ドラムのデュレーションに関しては他の練習曲についても同様の規定が適用されるから要注意である。

二大MOOCの比較雑感

下記記事でも紹介されている通り、大学発信の講座を中心としていわゆるMOOC (Massive Open Online Course) が昨今花盛りである。基本的に機械学習やプログラミングなどのSTEM系講座が圧倒的多数だが、音楽やその他アートなどの人文系講座も探せば結構たくさん見つかるようになってきている。

qz.com

MOOC業界では営利を目的としたスタートアップも国内外問わずに近年数多く進出している状況だが、クオリティやコース教材の豊富さという点では老舗に近い非営利系の Coursera(スタオンフォード大発)と edX(MIT+ハーバード大発)が2大サービスと言ってよい。英語さえ問題なければ、この2つでほぼ全領域をカバーできるのではないかと思う。

今年後半以降、個人的にこの2大サービスを頻繁に活用する体験を得たので、この辺で簡単な比較レビュー・メモを書いておくことにしたい。

コース領域

edX はIT関連のコースが Coursera よりもかなり充実しているように見受けられる。会計学等ビジネス系もかなり豊富である。MicrosoftIBM のスポンサー講座が提供されているため、個別のソフトウエアやプログラミング言語に焦点を絞った1ヶ月未満の短期講座が数多く、手軽に受講しやすい。この辺は edX の方がやや実利向けの趣が強いように感じる。

逆に Coursera は音楽含めて人文系の興味深いコースが意外に多く用意されている。標準ペースで3ヶ月程度のコースが多く、また講義スタイルもどちらかといえば大学のアカデミックな講義に近いものが多いように思う。Andrew Ng 先生の機械学習入門講義がその典型である。

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モバイル・アプリなどのシステム

システムのUIはモバイル版含めて Coursera の方が完成度が高く、使い勝手も良い。Coursera のモバイル・アプリは割と頻繁に改善アップデートを繰り返しているが、edX の方は放置状態に近い。

edX のシステムはやや重い印象があり、IBM などのスポンサー講座はプログラミングLab用に別サイトに飛ばされることがよくある。ビデオ・レクチャーを視聴しても一回でチェック・マークが付かないことが多い(これは結構苛々させられる)。また、モバイル版ではビデオ・レクチャーや講義ノートなどの個別のマテリアルに対して進捗確認用のチェック・マークが付いていないのでどこまで進んだか判別しにくい。

これは言わずもがなだが、モバイル版に講義ビデオなどをオフライン視聴用にダウンロードする際は必ずWiFi環境で実行する。さもないとギガ不足に陥る可能性がある。

費用面

基本的には両サービス共にオーディット (audit) モード*1で受講すれば、一応は無償ですべてのコース・マテリアル(課題採点を含む)にアクセスできる講義が多い(全部ではない)。ただし、オーディットの場合は修了証は発行されない。逆に言うと修了証が不要であればオーディット・モードで受講しても特に差し支えないと思う。修了証は後日支払いを済ませば後追いで発行してもらうことも可能であるが、edX はその手続きができる有効期限がコース毎に決まっている。

非営利系とはいえ、最近の傾向として両サービス共に有償コース*2に力を入れており、オーディット・モードではお試し期間を除いてまったくアクセスできないか、もしくは課題採点の対象外になる講義が増えている。ちょっと変わったところでは、Coursera は月額サブスクリプションでチャージする形態があり、この場合は同じ有償コースでも早期修了すれば安く済むようになっている。だいたい月額5千円前後のコースが多いように思う*3

営利系サービスについて

営利系の代表格はたとえば Udacity であるが、こちらはごくごく一部のサンプル講座を除いて基本は有償コースのみの提供である。どちらかと言えば就職に直結した職業専門教育という実益重視の趣旨が色濃く、料金面でも Coursera や edX に比べればかなり高額である。その代わり、チューターによる課題採点や個別質問の対応などきめ細やかなサービスを受けられる。なので、興味本位で気軽に受けてみるというサービスではなくなっているように思われる(営利系すべてがそうというわけではないが)。

*1:本屋での立ち読みみたいなもので、当該コースが自分の興味と目的に合っているかどうかを確認するためのアクセス・モード。

*2:概ね半年以上のコース・セットで学位授与するもの。edX の MicroMasters など。

*3:私はまだ有償コースは試していない。機械学習プログラミングやファイナンスなどの特殊専門分野にこの手の有償コースが多い。